火曜日の中間選挙で民主党が”ブルー・ツナミ”、”ポリティカル・アースクウェイク”と表現される歴史的勝利を勝ち取った様子は世界中で報じられ、
通常なら米国中間選挙結果には反応を示さない諸外国の政府関係者がこぞってアメリカに民主主義が脈々と生きていたことを好感。
同様の変革の波が他国にも及ぶことを予想する声も聞かれた中、共和党に4億7400万ドルを投じたイーロン・マスクも
選挙で大敗を喫したと見なされた1人。
マスクにとって痛手となったのは2億2400万ドルを投じたテキサス州の上院議員選と州知事選で共和党が敗れたこと。
上院議員選では130万人の支持者から1億3430万ドル以上の寄付を集めた37歳にして上院選初出馬のジェームス・タラリコが、
マスクが約2億万ドルを投じた同州現職司法長官、ケン・パクストンに勝利。州知事選では4期目の再選を狙った悪名高いMAGA州知事、
グレッグ・アボットが同州下院議員のジーナ・イノホサ(52歳)に敗れ、36年ぶりの民主党州知事、テキサス史上初のヒスパニック系知事が誕生。
2020年のパンデミック中にカリフォルニアの民主党政治と税制&規制に反発してテキサスに移住したマスクが、その後2021年にテスラ、2024年にスペースXの本社を不動のレッドステートと思われたテキサスに移したのは周知の事実。
以来マスクは州政府から多大な恩恵を受けており、この夏にはスペースXとテスラが共同で建設中のチップ工場「テラファブ」が約16億6000万ドルの減税措置と3000万ドルの州補助金を得ており、
史上初の一兆ドル長者にフリーマネーを与え続けたのがテキサス州政府。
同州南部のキャメロン郡にはスペースXの従業員が占める法人自治体”スターベース”が設立され、同州中部のスネイルブルックにも同様の従業員コミュニティを形成したマスクは、
巨大なデータセンター建設を目論んでおり、そのテキサスがブルーに染まったのはマスクにとって大誤算。
新州知事イノホサも、新上院議員のタラリコもデータセンターへの規制強化を公約しており、選挙後にイノホサ次期知事はスペースXへの土地売却停止を要請。
その中にはボカチカ州立公園のスペースXへの売却も含まれており、これまでマスクの言いなり状態であったのがテキサス。
マスクは「もしテキサスがデータセンター建設を認可しなければ、別に移るだけ」と語るも、
これまでなら有力な候補地になりえたノース&サウス・キャロライナ、オハイオ等が今回の選挙でことごとくブルーに転じたことから、
スペースXにとって技術的にハードルが高過ぎると言われる宇宙データセンター建設をほのめかしているのだった。
加えてマスクが危惧すべきは民主党が下院で過半数を握り、彼に対する捜査、召喚、証言録取が可能になることで、
昨年大失敗に終わったDOGE(政府効率化省)による連邦職員の不当解雇と政府機関閉鎖、及び政府データベースからの国民情報取得、
つい最近のウクライナ軍が使用するスターシールドの意図的なインターネット減速に至るまでに捜査のメスが入ることは確実。
その結果次第ではマスク経営企業の利益を支える巨額の政府コントラクトの見直しや打ち切りはもちろん、今後取り沙汰されるスペースXとテスラの合併や、
スペースX傘下のスターリンクのモバイル通信分野進出計画にも影響が出るのは必至。しかし世論が望むのは、大富豪にとって痛くも痒くもない金銭&ビジネスの制裁ではなく、あくまで実刑判決。
下院監視委員会の捜査対象になるのはトランプ氏やその家族、側近、政府関係者も同様で、選挙前から汚職や職権乱用の捜査を進めてきた民主党の調査委員会は、
1月の新議会発足を待たずして今後数週間以内に政府関係者はもちろん、企業や一般人に対しても書簡/文書保全要請を送付する見込み。
下院監視委員会の次期委員長、ロバート・ガルシアは選挙当夜に「Lawyer Up/弁護士を準備しておけ」という
短いくも鋭い声明でMAGA関係者、及び収賄、贈賄関係者に警告していたのだった。
選挙敗北後は、それまで強気だったマイク・ジョンソン下院議長が、1月から野党となる共和党の院内総務には立候補しないと語り、
その後2日間に連邦司法省の主要幹部3人が次々と辞職。ヘグセス国防長官弾劾が濃厚となる中、
今週金曜には第二次政権発足時にはトランプ氏に最も信頼され知恵たスーザン・ワイルズ首席補佐官が辞任。
後任はメディアとのインタビューで激昂することで知られるスティーブン・ミラー副補佐官という壊滅的な人事で、マルコ・ルビオ国務長官の辞任の噂までが流れる始末。
2028年の大統領選出馬を視野に入れるヴァンス副大統領は、それまで散々支持してきたイラン戦争に突如反対の意思表示をし、戦争終焉とアメリカ・ファースト、物価抑制を実現する新しい右派、
その名も”New Right/ニュー・ライト”という全く捻りの無いネーミングの新しい右派勢力の構築に動き始め、あっという間に始まったのが共和党内のトランプ離れ。
トランプ氏はイーロン・マスクや家族、政権関係者を守るために今後予想される訴追に向けての恩赦を与える意向を示しているけれど、
これがまかり通れば大統領とその家族、政権関係者が何をやっても法の裁きから逃れられることを意味するため、今後はトランプ氏の恩赦の権限が法的にどう制限されるかが興味深く見守られるところ。
そのトランプ氏は既に「VETO/ヴィートー(拒否権)」の文字をフィーチャーしたベースボール・キャップをSNSに投稿をしながら、
民主党主導の議会決議を覆す意気込みを見せながらも、自分と家族に及ぶ捜査を恐れて民主党との連携姿勢をほのめかすどっちつかずの態度。
今後2年間で民主党が進めると言われるのは、最低賃金引上げ、労働者の有給休暇保証、住宅価格抑制法案、健康保険料補助金復活等、
徹底した有権者ファーストの法案。
トランプ氏がこれらに拒否権を発動すれば国民からの反感が一層高まり、反対票を投じた共和党議員もその投票記録が残るので次の選挙で敗れる可能性は大。
もし共和党議員が賛同して上下院で3分の2以上の賛成票が得られれば、トランプ氏は拒否権の発動ができなくなる訳で、
民主党はトランプ氏弾劾のようなハードルが高い法案ではなく、2028年の大統領選を視野に入れた単独法案を積み上げながら、
汚職&エプスタイン疑惑隠蔽等の捜査によってトランプ氏と政権関係者を追い詰める戦略に出ると言われるのだった。
選挙勝利後の民主党はチャック・シューマー上院院内総務、ハキーム・ジェフリーズ下院院内総務がそれぞれに勝利宣言を行ったけれど、
民主党支持層の間で高まっているのが新しい世代の民主党トップを求める声。今回の選挙で民主党が圧勝したのはトランプ政権と共和党が常軌を逸した酷さであったためで、
国民が必ずしも民主党を諸手を挙げて支持している訳ではないのは周知の事実。
今や民主党のスターはAOCことアレクサンドリア・オカジオ・コルテス、ジョージア州選出のジョン・オッソフ上院議員、NYのゾーラン・マムダニ市長、ミシガン州選出の史上初のイスラム教上院議員、アブドゥル・エルサイード、初の黒人女性州知事として当選したケイシャ・ランス・ボトムズ、前述のジェームス・タラリコ等、若く新しい世代、それも企業献金やビリオネアのPACマネーを受け取らないプログレッシブ派に移行。
大手企業と癒着する”民主党穏健派”と呼ばれる古参のシューマー、ジェフリーズ等は共和党と大差が無く、彼らは民主党を選ぶ予備選ではプログレッシブ派の対立候補を支援してきた立場。
既にシューマーの次期上院議長就任に反対するオンライン署名運動には僅か2日間で10万人以上が署名。ジェフリーズ下院議長就任に反対する活動には
何と75万人以上が署名しており、民主党支持者にとって中間選挙は共和党支配の終焉であり、民主党大改革の始まり。
民主党支持者はシューマーの娘がオープンAIによってアマゾンから高額給与でヘッドハントされたこと、ジェフリーズがトランプ氏の娘婿、ジャレッド・クシュナーとこの夏に極秘のプライベートなミーティングを行ったこと等を熟知しており、
しかも2人はAIPAC(エイパック/アメリカ・イスラエル公共問題委員会)から多額の献金を受け取っており、イスラエルには逆らえない政治家。
今回の選挙では、テキサス州民を中心にイーロン・マスクからの選挙資金を受け取った候補者に有権者がアレルギー反応を示したけれど、
同様に若い世代を中心に広がっていたのがAIPACからの献金を受け取る政治家への嫌悪感。
これまで何の疑問も抱かずにイスラエル優遇政策を支持してきたブーマー世代はAIPACの存在さえ知らずに生きて来たけれど、
若い世代はAIPACが多額の献金で米国政治を牛耳り、政策に多大な影響力を持つ現状を認識しており、
ガザ地区への攻撃以来、イスラエルへの反発を強めてきた彼らにとって、アメリカがイスラエルのために無益で終わらない戦争を始め、
2028年までの10年間、毎年アメリカが貧困国でもないイスラエルのために約40億ドルの軍事援助を支払う現状は「馬鹿げている」の一言。
今回の選挙ではそんなイスラエルに反旗を翻した若い世代の大半が民主党に票を投じており、Z世代の政治インフルエンサーがこぞって掲げているのが
イスラエルとAIPACの影響力をアメリカ政治から排除する必要性。
今回の民主党勝利にはそんなZ世代のリベラル派政治インフルエンサー達が大きく貢献しており、
FCC(連邦通信委員会)からの放映ライセンス取り消しを恐れてメインストリーム・メディアが放送出来ない情報を
彼らのYouTubeチャンネルやポッドキャストがいち早く伝えてきただけでなく、
民主党の新世代の政治家達が予備選の段階から彼らのチャンネルやポッドキャストに積極的に出演。彼らをインディペンデント・メディアとして盛り上げたことが、互いに有益な相乗効果をもたらしたのは紛れもない事実。
2016年には「泥沼のように汚いワシントン政界の一掃」を訴えて大統領に当選したトランプ氏の原動力として語られたのが”ポピュリズム”。
しかし民主党のナンシー・ペロシ元下院議長が12年間に213回の株式取引で約500万ドルを儲けたと攻撃されたけれど、
トランプ氏は第二期政権下の17カ月間だけで合計2万8700回、取引日平均80回という頻度を行い、2026年第1四半期だけでも行ったのは最大で7億5000万ドル相当の取引。
かつて共和党がバイデン大統領の息子、ハンター・バイデンが中国関連のビジネスから受け取ったとクレームした金銭が130万ドルであったのに対して、
トランプ氏個人とファミリーの汚職疑惑は軽くその100倍を超える10億ドル単位。
2026年にトランプ共和党を敗北させた原動力に同じ”ポピュリズム”という言葉が用いられるのは何とも皮肉かつ滑稽な印象を受けるのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


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