中間選挙を間近に控えたアメリカでは先行投票が始まっており、今週水曜の段階で既に投票を済ませた人々は1400万人。
中間選挙は歴史的に与党が議席を減らすのが通例であるけれど、それを必死で食い止めようと多額の資金を注いでいるのがトランプ支持のビリオネア達。
中でも2024年の大統領選挙でトランプ氏のために2億5000万ドルを投じたイーロン・マスクは、今年7月以降だけで2億7600万ドル、
中間選挙サイクル累計では約3億6600万ドルを投じており、特にテキサス州上院議員候補で同州の現職司法長官、
ケン・パクストンの選挙はマスク1人が資金を投入しているとさえ言われるほど。ちなみにケン・パクストンは汚職まみれで性犯罪者に甘く、
ジョージ・W・ブッシュ元大統領(共和党)の娘、バーバラ・ブッシュさえ民主党の対立候補を支援するPACに2500ドルを寄付した”史上最悪”と言われる候補者。
マスクが大金を投じる理由は民主党が過半数を握れば、昨年彼が率いたDOGE(政府効率化省)の運営に捜査のメスが入るだけでなく、トランプ政権下で彼が更に増やした
多額の政府コントラクトの見直しが確実視されるため。さらに先週にはマスクのスペースX傘下の衛星システムでウクライナが戦場通信やドローン運用に使用しているスターシールドの通信速度が意図的に制限され、ウクライナにダメージと死者をもたらしており、トランプ氏にその提案をしたマスクには戦争犯罪と反逆罪が問うべきとの声が浮上。
これを受けてスペースX傘下のスターリンクのサテライトを使用していた欧州諸国は「もはやマスクは信頼できない」と、サテライト契約を欧州企業に切り換えると見られ、
今週には欧州のサテライト企業、ユーテルサットの株価が31%上昇していたのだった。
同様に中間選挙にはグーグル共同創業者のセルゲイ・ブリンやパランティアの共同創業者ピーター・ティールも
多額の資金を投じているけれど、その行先はカリフォルニアが州内の約250人のビリオネアの資産に対して1度限りの5%の課税を行い、約1000億ドルを徴収するという Proposition 40(住民投票案40号)を阻止するための活動。これを巡っては世論も二分されており、推進派はその徴収分で政府予算でカットされた州の医療プログラムを支払い、残りを食料支援や教育に回せると主張。加えてビリオネアはトランプ予算により減税の好待遇を受けているという意見。
セルゲイ・ブリンはその阻止のために1億200万ドルを投じているけれど、それもそのはずで法案が可決されれば彼が支払う税金は130~140億ドルと言われるのだった。
イラン戦争が始まって以来、トランプ支持基盤が大きく揺らいできたのはアメリカに暮らしていれば誰もが感じるところ。SNS上では特に2026年に入ってから
MAGAハットをかぶっている人々が様々な商業施設から追い出される投稿が急増。MAGAはこれを「差別」と抗議するものの、連邦法において
政治的信条は差別禁止の保護対象外。すなわちビジネス・オーナーが政治的信条からMAGAを拒むのは合法で、皮肉にもそれを支える判例となっているのは
2018年、ゲイ・カップルのためのウェディング・ケーキ製作を宗教的信条から拒んだコロラド州のキリスト教保守派ベーカリーが最高裁で勝訴したケースなのだった。
中にはメジャーリーグ・サッカー・スタジアムのように、一切の政治メッセージを禁止する場所であえてMAGAハットをかぶって退場を命じられる様子をSNSに投稿し、
MAGAの怒りを煽って再生数稼ぎをする悪質なインフルエンサーもいるけれど、アンチ・トランプ派の間でジョークとしてヴァイラルになったのが、自分の横顔の輪郭に合わせてトランプ氏の横顔のタトゥーを入れたテキサス州の男性が「面接官が自分がMAGAハットを被っているのを見て採用を断った」と抗議した様子。(写真上左)
トランプ支持基盤がここへきて崩れて来た理由は大きく分けて3つあり、1つ目はトランプ政権下での生活補助打ち切りやイラン戦争が始まってからの更なる物価高でいよいよ生活が苦しくなったMAGAが、「アメリカ経済は絶好調だ」、「ガソリン価格は直ぐ下がる」、「今の問題は全てバイデンのせいだ」というトランプ氏の言い分と現実との食い違いを認めざるを得なくなったこと。
2つ目はトランプ氏がMAGAの結束を固めるために利用してきた怒りの感情が、さすがに10年続くとガス欠状態になってきたこと。
今やMAGAの怒りを煽れるのは「自分達はこんなに貧しく、金持ちばかりが得をしているのにそれでも未だトランプを支持するのか?」、「エプスタイン疑惑をはぐらかしているのはトランプだ」と
MAGAの存在理由を否定されること。中間選挙の集会ではトランプ氏の演説が何度も抗議者の野次で中断されているけれど、
会場内のMAGAが最も盛り上がるのはそんな抗議者を暴力で追い出す瞬間。トランプ氏の演説内容には殆ど反応しなくなっているのだった。
トランプ支持基盤が崩れた3つめの原因は、それまで「トランプ支持でなければ、家族でも友人でもない」とカルト化していたMAGA信仰から
覚める人々が増えたこと。心理学者によればカルト宗教からの離脱には6~10年が掛かると言われるけれど、狂信的な思想でも時間が経過し、
突き付けられたリアリティに考えが及ぶ精神的余白が生まれると、そこから疑問に思えて来るのが信仰心。
SNSには「MAGAだった自分が、如何に愚かだったか分かった」と懺悔のような告白や、
MAGAハットを燃やす映像が増え、脱MAGAを支援する団体が全米各地に登場したことにもカルト信仰が終わりに向かう様子が現れているのだった。
2024年の大統領選直後には「今はコンサバティブがクール」と言っていた若い有権者も現在では保守離れを起こし、
若い女性が「女性は家に入るもの!」と男尊女卑のMAGA男性のウケを狙ったトラッドワイフ(トラディショナル・ワイフ)・トレンドもあっという間に終焉。
当時エプロンをしてTikTokに登場していた20代の女性インフルエンサーは「生活力が無い女なんて奴隷と一緒」と脱トラッドワイフ宣言をしているけれど、
アンチ・トランプ派が警戒するのはこうした”にわかMAGA”より、まともに情報収集をしていないMAGA。
トランプ氏の演説会場にやって来たMAGAにメディアが、オバマケアの補助金がトランプ政権予算法で打ち切られたことについて尋ねたところ、
「オバマが嫌いだからオバマ・ケアなんてどうでも良い」、「自分はアフォーダブル・ケア・アクト(ACA/医療費負担適正化法)だから関係ない」という返答。
このアフォーダブル・ケア・アクト(以下ACA)はオバマ政権下で成立したのでオバマ・ケアというニックネームがついただけで、両者は全く同じ物。
そこでインタビュアーが「オバマ・ケアとACAの違い」についてMAGAに尋ねたところ、誰1人として2つが同じ物だと理解していなかったとのこと。
中にはオバマ・ケアの替わりにトランプ政権下で成立したのがACAだと思い込んでいる人、新たな予算法で保険料の税額控除が失効するのは
不法移民だけだと勘違いしていた人も多い情報難民ぶり。その結果ACA補助を得られくなった人の中には2025年度まで毎月700ドルだった健康保険料が、
突然毎月3777ドルにアップして保険が更新出来ないケースも報じられたけれど、トランプ政権下で健康保険を失った大多数はトランプ支持のレッド・ステーツの人々。
同様のことはトランプ関税にも言えることで、未だにトランプ関税を実際に支払っているのがアメリカ国民だと理解しているMAGAは殆どおらず、
トランプ氏が演説の度に自慢するトランプ関税収益こそが物価を上げる要因になっていることを全く理解していないのだった。
そんなMAGAの盲目的な支持構造を生み出したと言われるのがトランプ氏が2016年の大統領選キャンペーンで語った「I love the poorly educated/私は教育水準の低い人々が大好きだ」、「I could stand in the middle of Fifth Avenue and shoot somebody, and I wouldn't lose any voters / 5番街に立って誰かを銃で撃っても、自分への投票者を失うことは無い」という2つのセンテンス。
これを聞いてもトランプ氏を支持出来る人々と、この見下し発言を「学歴否定&型破りで今までの政治家にない大胆さ」と解釈して惚れ込んだ人々が形成したのがMAGA。
トランプ氏はつい最近のテネシー州のスピーチでも「自分がどんなに馬鹿げたことを言っても、君たちは拍手するだろう」と引き続き見下しセンテンスをジョークのように語っていたけれど、
こうした「馬鹿にされても支持するメンタリティ」についてある政治インフルエンサーが投稿していたのが、
MAGAの目の前に背が低く直径が太いコップと、背が高く細いコップを並べ、太目のコップに入っていたオレンジ・ジュースを細長いコップに移すというシンプルなテスト。
すると同じ量のジュースでも細長いグラスの水面の方が高くなるのは当然だけれど、それを見て「オレンジ・ジュースの量が増えた」と回答するMAGAは調査する度に2人に1人、3人に1人の割合で存在したという。
すなわちジュースの量がコップの中の水面の高さでしかジャッジ出来ないという思考柔軟性の無い人々がMAGAになる傾向にあり、Redditに書き込まれた分析でも
「MAGAの愚かさとは知性の欠如ではない。どんな証拠を突きつけられても、自分の考えを変えまいとする決意のことである」と同様に思考柔軟性の無さを指摘していたのは興味深いポイント。
今や政治キャンペーンからマーケティング、製品開発、SNSアルゴリズム等全てが行動心理学や社会心理学に基づき、
人々の消費からライフスタイルまでを一定方向に誘導していると言われる中、アメリカの南部・中西部の白人キリスト教保守派貧困層であるMAGAは
非常に攻略が簡単な支持層であったのは容易に想像がつくところ。
アンチ・トランプ派の間では「MAGAが生活に困窮することで一度は考えを改めても、経済が持ち直して再びトランプやヒットラーのようなポピュリスト指導者が現れれば、
彼らはまた同じようにカルトに入り込む」という意見は多く、それを防ぐための知識や正しい判断力、柔軟な思考の大切さが改めて問われているのが現在。
しかしそれらはAIの普及に伴い劣化するものでもあり、トランプ政権が一流大学叩きをしながら、大手IT企業と共にAIに力を注ぐのも、「常に彼らだけがトップに存在して搾取を続けられる独裁政権と封建社会に向かうため」と言われるのだった。
![]() |
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2025.