今週のアメリカで大きく報じられたのが、テネシー州で9月30日に執行された致死性薬物による死刑で、2回の投与でも心停止に至らなかったクリスタ・パイク(50歳)が意識を取り戻し、
「Where am I and who are you?(ここは何処、貴方は誰)」と尋ねた様子。意識は完全にクリアではないものの、歩行が可能になるまでに身体が回復した彼女は、
「テネシー州で200年ぶりの女性死刑囚」から「米国史上初の薬物投与による死刑サバイバー」になったのだった。
パイクの弁護団は今年1月に、未訓練かつ無資格の職員が注射を担うリスクや、パイクの細い静脈への的確投与の難しさを含む問題点、違法性を指摘して、
死刑執行方法の見直しを求める訴訟を起こしており、今週テネシー州判事が下したのがその再審を認める判断。
パイクは35年前に当時の交際中のタダリル・シップを奪おうとしたとの思い込みから、同級生コリーン・スレマーにシップと共にリンチを行い、
スレマーの胸にナイフでペンタグラム(五芒星)を刻み込んだシップ(当時17歳)が終身刑、
アスファルトでスレマーの頭蓋骨を砕いて殺害し、頭蓋骨の一部を見せびらかしていたパイク(当時18歳)が受けたのが死刑宣告。
被害者の母親はパイクの死刑を強く望んでいるものの、再度執行が審議される以前に、死刑執行方法についての再審議が行われることになったのが現時点。
一方、今週木曜にピート・ヘグセス国防長官がメディアに語ったのが、フォートフッド銃撃事件で死刑判決を受けたニダル・マリク・ハサンを銃殺刑に処し、その様子をライブ配信で国民に公開する意向。
ハサンは2009年、テキサス州フォートフッド軍事基地で13人の兵士を殺害し、32人を負傷させた銃撃事件で有罪判決を受けた陸軍の精神科医(少佐)。
イランでの反政府活動者の公開処刑を批判していたトランプ氏は、既にこの死刑執行を承認しており、執行予定日は12月3日。クリスタ・パイクのような民間人の死刑は非公開が法律で定められているものの、
ハサンのケースは軍による死刑執行なのでその対象外ながら、国際法に違反しており、国内からも批判が集中。
米軍による最後の死刑執行は1961年4月13日で、最後に米軍で銃殺刑が行われたのは第二次大戦中の1945年のこと。
民間人の銃殺刑が最も最近行われたのはサウス・キャロライナ州で、2025年2月と3月にそれぞれ1件。同州を含めたミシシッピー、オクラホマ、アイダホ、ユタの5州では、現在も銃殺刑が認められているのだった。
今、アメリカで空前のスキャンダルになっているのがアイヴィー・リーグの名門、コーネル大学のフラタニティ(男子学生社交クラブ)「カイ・ファイ(Chi Phi)」のメンバー7人によるギャング・レイプ事件。
これが起こったのは2024年10月19日で、訴状によれば被害者Jane Doe(米国における匿名女性被害者の仮名)はキャンパス外のバーで彼女が所属するソロリティ(女子学生社交クラブ)のメンバーと飲んだ後、
午後11時頃、友人に会う目的でカイ・ファイ施設を1人で訪れたとのこと。
そこで彼女は2人のカイ・ファイのメンバーからケタミンと度数の強いアルコール摂取を強要され、意識がもうろうとして抵抗不可能なまま、2人だけでなく
その後次々と部屋に入ってきたフラタニティのメンバー、合計7人によって午前5時過ぎまで繰り返し性的暴行を受けたとのこと。
ジェーン・ドウは一部のレイプ容疑者とは知り合いで、後日個人的に連絡を取ったようだけれど、友人達から被害を訴えるように促され、11月8日にコーネル大学警察に通報。
しかしそこからの捜査手続きは極めて不透明で、告発された学生は大学による聞き取りに対し「性的行為は合意の上だった」と証言。
後にカイ・ファイ内部で「事件は合意の上での乱交だった」と口裏を合わせるミーティングが行われていたというのが当時のメンバーの証言。
学内ではジェーン・ドウに対して「レイプの訴えを取り下げるべき」との猛烈なバックラッシュが寄せられ、彼女は精神を病んで大学を中退。
結局、7人は「告発者が宣誓証言で行為が自発的合意の上と述べていた」という理由で不起訴処分が決定。しかしその判断を下した地方検事は、120ページにも及ぶ
聴取記録に目を通していなかったことが判明。判事は知事により解任されているのだった。
大学側が下した7人への処分は2人が退学、2人が2学期以上の停学、1人は処分前に卒業、残りの2人は性的不正行為の責任は無いと見なされ、そのうちの2人は現在も在学中。
今になってこの事件が大スキャンダルに発展したのは、ジェーン・ドウが証拠と弁護士を携えて、9月16日にNYの裁判所に7人に対する民事訴訟を起こしたのがきっかけ。
今や”コーネル・セブン”と呼ばれるようになった7人は、当時SNSのグループ・チャットで事前に彼女をフラタニティに呼び寄せる計画だけでなく、
彼女が避妊ピルを常用する恰好のターゲットであることをシェアしており、一度彼女が連れ込まれると「クラブ内にFree Pxxxy(女性の性器のスラング)がある」、
「カイ・ファイは最高だ」といったやり取りを交わしていた様子が浮上。 そのグループ・チャットを遡ると、彼らは別のアジア人女子学生にも
同様のギャングレイプをしていたと思しきやり取りも見られ、彼らにとってキャンパス・レイプはゲーム感覚。
ジェーン・ドウの弁護士によれば、今回の訴訟でも彼女に対して訴訟取り下げを迫る嫌がらせ行為が行われており、その被害はジェーン・ドウだと誤って特定されてしまった女性にも及んでいるとのこと。
今週月曜には、事件に対する大学の対応を不服とする抗議活動がキャンパス内で大きく拡大。コトリコフ学長への辞任要求にも発展。木曜にはその抗議活動が、コーネル大学から遠く離れたマンハッタンでも行われ、
大学のウェブサイトは、「ジャスティス・フォー・ジェーン・ドウ(ジェーン・ドウのために正当な裁きを)」の書き込みが溢れたため、コメント欄を閉鎖。
SNS上ではコーネル・セブン全員の名前と顔写真が公開され、「この7人は大学には許されても、社会には許されるべきではない」との意見で溢れかえっているのだった。
このスキャンダルは中間選挙直前というタイミングも手伝って、再選を目指すキャシー・ホークルNY州知事が法的手続きに介入し、コーネル大学のあるトンプキンス郡の地方検事を排除。
同じく再選を目指すレティシア・ジェームズ司法長官を捜査担当に任命したことことから、MAGAを含む保守右派は「民主党がジェーン・ドウを武器に選挙を有利に闘おうとしている」、
「民主党が攻撃したがっているのは、パレスチナを擁護する学生と対立するコーネル大学のイスラエル寄りの姿勢だ」と反発。
それ以外にも保守派インフルエンサーは、様々な理由をつけながら被害者ジェーン・ドウを批判。
超保守右派メディアのオピニオン・コラムでは、70年代のウーマンリブ、80年代のマドンナ、90年代の「セックス・アンド・ザ・シティ」、2010年代のMeTooムーブメント等、
長きに渡るリベラル派カルチャーの中で、女性の性的自由と社会的権利がアピールされてきた結果、「今時の若い男性はセックスをポルノから学ぶしかなく、コンセント(合意)さえあれば
相手にどんな行為をしても良いとの思い込みを抱くようになった」という的外れな批判すら見られたのだった。
2024年のアメリカの大学では年間約8万件の性的虐待事件が起こっており、これはあくまでレポートされた数値なので、実際の被害はそれ以上であるのは容易に想像がつくところ。
2017年に大きく盛り上がったMeTooムーブメントにより、社会の上層部の性的虐待者が失脚し、コンプライアンスが強化された結果、今では「コンプライアンスが厳しすぎる」との苦情が高まっているけれど、
冷静に現実を見れば 民事裁判で性的虐待の責任を認定されたトランプ氏が大統領に再選され、エプスタイン・ファイルの肝心な部分は隠蔽されたまま。
テキサス州司法長官で現在共和党上院議員候補のケン・パクストンは、児童性的虐待を認めた被告にたった1日の刑期という司法取引を提示ような性犯罪軽視の姿勢。
キャンパス・レイプも引き続き上層部が安易に揉み消しており、その傾向は良家の子息が集まる名門大学のフラタニティや、
大学に年間1億ドル以上のビジネスをもたらすフットボール部のメンバーとなれば、地方政治、お金、権力の全てが動いて犯罪をカバーアップするカルチャーは今も健在。
ちなみにMeTooムーブメント以前のアメリカのカレッジでセックス・プランク(悪戯)としてまかり通っていたのが、
ルックスが良い男子学生が女子学生を自分の部屋に連れ込み、部屋を真っ暗にして、そこで待機していた彼女に気がある男子学生と入れ替わるという事実上のレイプ。
当時は簡単に部屋についていく女子学生が責められることはあっても、騙す形で関係を持った男性側には全くのお咎めなし。
やがて価値観がシフトしたポストMeTooムーブメント時代にキャンパス・ライフを生きるZ世代は、ショーン・コネリーが演じたジェームズ・ボンドを”セクシスト、性的虐待者”と呼び、
「フレンズ」を人種差別コメディと認識する一方で、所有よりもシェアを好む価値観。フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションに疎く、恋愛経験にも乏しく、
特に男性にとっては「セックス=ポルノ」。そのため「普通のセックスでは十分な刺激が得られない」と感じる傾向が顕著で、
それが原因の勃起不全(ED)が急増中。現在アメリカでは18歳から24歳の男性の約18%がEDであるとのこと。
人気のポルノ・サイト、”Pornhub/ポルノハブ”では、再生数が多い動画の45%に女性に対する身体的暴力行為が少なくとも1回は含まれており、
女性が屈辱的な行為を楽しむようなポルノを見て思春期を過ごした男子は、「現実の女性達がそのような行為を求めていない」と知ると驚愕するという。
こうした思い込みは、長きに渡って男性が「女性の”No”は、求められたい、奪われたい心理の”Yes”」と主張してきた様子に通じるものがあるけれど、
その反発から生まれた「No Means No」のスローガンが、今では「Yesと言わせさえすれば、何をしてもOK」的な解釈に拡大されつつあるのは事実。
2025年にある大学の性体験者を対象に行われた調査によれば、女子学生の64%、男子学生の29%、そしてトランスジェンダーやノンバイナリーの学生の56%が、
性行為中に首を絞められた経験があると回答しており、暴力的なポルノの影響がZ世代の性行為に大きな影を落としているのだった。
加えて今では加害者が被害者面をする悪質性が加わり、コーネル・セブンの1人はギャング・レイプについて「自分も同意できないくらいに酔っていたのだから、自分こそが被害者」と、
何度もジェーン・ドウの腹上で寝落ちしながらもレイプを続けた様子を被害として主張する厚顔無恥ぶりを見せているのだった。
いずれにしても同事件の裁判には複数の法的論点があり、キャンパスが舞台で、被害者が加害者の一部と知りあいである場合、
何をもってレイプ、ギャング・レイプとするのか、もしくは合意の上の放蕩(ほうとう)と見なすのかは最も大きな争点。
カイ・ファイのメンバーのグループ・チャットの履歴から確実に言えるのは、彼らには女性とデートする気など無く、最初から連れ込んだ女性を複数人と関係させる計画を語っており、
被害者を調達すると、ドラッグとアルコールで抵抗不可能にしてから、性欲のはけ口として数人がその恩恵をシェアするのが当たり前の様子。
事件の全容は未だ明らかでないとは言え、万一何等かの合意やそれと誤解されるものがあった場合でも、数時間に渡り1人の女性に対して繰り返し性行為を行った7人を政治と結びつけて擁護し、
被害を訴えた女性側を攻撃するのは次元が異なる別世界の思考。
そこまで考えや価値観が異なる人々と選挙という制度を通じて、共通の指導者を選び、その決定に従うことにはかなり無理があるように思えてしまうのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


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