今週アメリカで最大の報道になったのはカントリー・シンガーでアクティビストのドリー・パートン死去のニュースであったけれど、その翌日には「ロッキー・ホラー・ショー」や「ホームアローン2」で知られる
俳優のティム・カリーが、さらに翌日には日本人アーティスト、ヤヨイ・クサマ氏の死去が伝えられ、時代の転換期を感じさせていたのだった。
一方アメリカ国民が危惧すると同時に、怒りを露わにしているのがトランプ政権がアルゼンチンから大量の牛肉を輸入し、昨年から大幅に値上がりした牛肉価格をコントロールするために、
牛肉に上限価格を設けるという共産主義国家のような措置に出たこと。これにはただでさえ移民労働者が去って経営難に陥る食肉業者が多いレッドステートの共和党議員も猛反発。
しかもアルゼンチンからの牛肉3万パウンドは米国輸入に際しての再検査を受けずにテキサス州、フロリダ州で流通されたことから、それらの肉はリコールされたけれど、
アルゼンチン産牛肉はつい最近も使用が禁止される抗生物質「クロラムフェニコール」が検出され、22トンが中国で受け入れ拒否になったばかり。そのためネット上では
「トランプがアルゼンチンの経済救済のために、その一部を引き取った」という噂、アルゼンチンが馬肉の主要産国でもあることから、
「牛肉と称して馬肉が出荷されている」という陰謀説も流れ、アルゼンチン産と米国産の牛肉を見分ける方法が各メディアで特集されていたのが今週。
2026年に入ってからはロバート・F・ケネディJrが長官を務める保健福祉省の食品安全部門が全く機能していないことが米国民に知れ渡り、
寄生虫によるサイクロスポラ症だけで現時点で1万5716件。それ以外にもサルモネラ菌や大腸菌による集団感染が同時多発的に発生し、
引き続き感染が警告されるハラペーニョやレタスに加えて、卵、ブルーベリー、粉ミルク等、
毎週のように汚染食品が増える中、米国民は一体何を食べれば安全なのか全く分からない状況に陥りつつあるのだった。
今週もう1つ大きな報道となったのは、Metaが傘下のインスタグラムによるティーンエイジャーへの悪影響を認め、向こう10年間に180億ドルの賠償金支払いと、
ティーンの閲覧可能時間に制限を設け、パーソナライズされたフィード以外のオプションを設ける等の改善条件に合意したニュース。
これはフェイスブックが今後もアメリカ国内と欧州で控える損害賠償訴訟に大きな影響を与えるだけでなく、同様の訴訟を抱えるグーグルやTikTokの裁判と
今後の経営にも影響を及ぼす極めて重大な判決。
でもMetaが抱える問題はそれだけではなく、昨今猛批判の対象になっているのがMetaのカメラ搭載AIグラス。
Metaがレイバンとのタイアップで開発した眼鏡は、AIスマート・グラス市場で80%のシェアを誇るものの、これを使用して見知らぬ女性に声をかけて撮影するインフルエンサーは後を絶たず、
同意なしに一般人を撮影する悪ふざけも横行し、今では「変質者用メガネ」のイメージが定着。世間のバックラッシュがあまりに激しいことから、
「持っていても使えない」という声さえ聞かれるのが現在。 NYの裁判所は7月に法廷内でのグラス着用を禁止し、イギリスでは映画館がグラス着用禁止を打ち出し始めたところ。
Metaはユーザーに対し、診療所、ロッカールーム、公衆トイレ、学校、礼拝所といったプライバシーに配慮が必要な場所ではスマート・グラスの電源を切るように呼びかける一方で、
「Instagramストーリーズ等で他者への嫌がらせ行為を投稿したユーザーはアカウントを停止する」と宣言。既に2つのアカウントが停止処分を受けているものの、
XやTikTokの投稿までは責任が持てないのは当然のこと。
特に多いのは若い女性や子供達を狙った撮影で、これまでに投稿された動画の中には、撮影されていると知らずに年齢を尋ねられた少女が「17歳」と答えると、
撮影者が直ぐにその場を去り「17歳じゃ手出しできない。あのビッチが17歳だなんて誰が信じられるか」と悔しがる様子や、
スターバックスで前に並ぶ女性のヒップをクローズアップで撮影し続け、執拗に電話番号を聞こうと迫る様子の投稿、
さらには道行く一般女性のルックスを片っ端から口汚く批判するもの等があり、Metaがアカウント停止処分を打ち出してからもこうした投稿は後を絶たないとのこと。
そんなAIスマート・グラスのコラボ・パートナーとしてMetaが選んだのがカーダシアン・ファミリーの一員で、自らのコスメ・ブランドで一時ビリオネアとなり、現在も総資産約7億ドルと言われるカイリー・ジェナー。
”Meta スターファイヤー・カイリー・エディション” のスマートグラスは399ドルで、このパートナーシップにMetaが支払ったと言われるのが2500~3500万ドル。
好感度が低い彼女に大金を支払ったことが報じられからはバックラッシュにさらに火がついて、街中には彼女の広告のパロディ版が登場。でもSNS上でヴァイラルになったのは、
あのセックス・トラフィッカー、ジェフリー・エプスティーンがAIグラスを着用した写真に「同意という概念を持たない人向けのメガネ」というキャッチコピーをあしらって、
変質者による無断撮影を警告するパロディ広告。
Metaにさらなる追い打ちを掛けたのは、ブラジルの産婦人科医がAIグラスを掛けて診療に当たろうとして逮捕されたニュース、そして同社のスマートグラスのソフトウェアに
密かに顔認識技術が組み込まれていたことがWired誌の報道で明らかになったこと。すなわちこのAIグラスは変質者に一般人の無断撮影を許すだけでなく、
その身元を明らかにする機能まで備わっているのだった。
またThe Vergeの報道によれば、ただでさえ高額なAIグラスに、今後は人気AI機能の月額19.99ドルのサブスクリプションが導入されるようで、フィーを払った場合も利用回数制限付き。
ちなみにAIグラスはデータの処理に際してリモートサーバーへ接続する必要が無いので、Metaは利用に追加コストが掛からないサービスに月額制度を設けているということ。
それもあって「月額料金を払ってまでスマートグラスのAI機能に固執するのは、無防備な女性や子供の映像を集める変質者や小児性愛者以外にあり得ない」という意見が多く、
2025年に700万台を売り上げたMetaのスマートグラスは、世界中からの批判が集中するだけでなく、今後の訴訟に発展する火種を多々抱えているのだった。
Metaの業績自体は引き続き好調で、2025年の売り上げは前年比22%増の約2000億ドル、純利益は前年比3%減の604億ドル。広告単価は前年比で9%アップ。
2026年第2四半期の売り上げも前年同期28%アップの600億ドル。2026年6月時点でMetaアプリのデイリー・ユーザー数は全世界で36億人。
しかしMetaの利益のほぼ全てはインスタグラムとワッツアプの2部門からのもので、中でも2012年に当時社員13人だったインスタグラムを10億ドルで買収したのは、
史上最もサクセスフルな企業買収と言われ、現在インスタグラムの単独評価額は買収額の70倍に当たる70億ドル。
それ以外のMeta傘下を見ると、フェイスブックはザッカーバーグがクリエイトしたとは言え、アイデアは映画「ソーシャル・ネットワーク」に描かれていた通りウィンクルヴォス兄弟のもの。
スナップチャットに対抗してクリエイトしたPoke、Slingshotはいずれも失敗し、その後2016年にスナップチャットをそのままコピーしたインスタグラム・ストーリーが誕生。
TikTokに対抗して2018年にスタートしたLassoも失敗に終わり、2020年にTikTokにより近い形で作り変えたインスタグラム Reelsがようやく成功。
2023年にはイーロン・マスクが2022年にツイッター(現X)を買収したことでツイッター離れを起こしたリベラル派&アンチトランプ派を取り込もうと、同じコンセプトでスレッドを立ち上げ、
こちらはインスタグラムのログインを使ったお陰で、僅か5日間に1億人のユーザーを獲得。 要するにザッカーバーグのビジネスの成功例は全て買収、コピー、インスタグラムへの依存というのが世の中一般の評価。
彼が1からクリエイトしたアプリはことごとく失敗し、暗号通貨ライブラは後にディエムと改名し、結局はテクノロジーのみを売却。デジタル・ウォレットのNOVIも2022年にシャットダウン。
スマート・ウォッチは製品化されずに終わり、社名を変更してまで取り組んだメタヴァースは2020年以来、総額約880億ドルを投じて今年3月に打ち切りを発表。
しかしバックラッシュを受けて翌日にそれを撤回せざるを得なかったという有り様。
そしてMetaが2026年だけで1450億ドルを投じるAIプロジェクトにおいては、2025年6月にスタートアップ、スケールAIの49%の株式を取得。
それにより2021年に史上最年少でビリオネアになったAIエンジニアでスケールAIの創業者、アレクサンダー・ワンをメタのチーフAIエグゼクティブに迎え、
それ以外にもOpen AI、グーグルのディープ・マインドから有能なエンジニアを1~2億ドルの報酬パッケージで引き抜いて精鋭チームを結成。
しかしMetaのAI、“Llama”は学習が不安定で2026年に入ってプロジェクトは棚上げ状態。
現在のMetaのAIプロジェクトはもっぱらデータ・センターの建設。しかしそれによって全米各地で水質汚染を含む環境破壊と電力需要の激増を起こしており、
企業イメージは悪化する一方。
今週の裁判の示談合意も、賠償金180億ドルはMetaにとっては大きな額ではないとは言え、裁判費用に24億ドルが掛かっており、それは今後も訴訟に伴って賠償金と共に増える見込み。
また前述の通り示談条件で合意したアルゴリズムの改変や、ティーン・ユーザーへの時間制限といった変更が広告収入の減少を招くのは必至。
その状態でMetaは殆ど利益を上げていないAI事業に1450億ドルを投じるため、今年250億ドル相当の社債を発行予定。
これまでザッカーバーグが1からクリエイトしたものがことごとく失敗してきた前例から、AIビジネスの未来とは別に、AIへの大出費がMetaの経営を大きく傾かせるという見方は極めて有力なのだった。
来週は1週お休みをいただきます。次回更新は9月2週目となります。米国在住の皆さま、レイバーデイ・ウィークエンドを楽しまれてくださいませ。
![]() |
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2025.