June 22 ~ June 28 2026

Money, Money, Money
チップ、養育費、賄賂、スポンサー料、金まみれでも儲からないワールドカップ


 このところアメリカのトップニュースはもっぱら異常気象。2026年は特に竜巻の当たり年で、イリノイ州では1924年に記録した年間142件の記録を破る205件の竜巻を2026年に入ってから今週までに記録。 コロラド、ニューメキシコ、ユタ州で大規模な山火事が、カリフォルニアでは1940年代以来最大となるマグニチュード5.6の地震が発生。 アメリカも欧州同様の猛暑に見舞われ、豪雨と洪水の被害が相次ぐ中、サンダーストームの影響でワールドカップのファン・イベントが延期や中止になる事態も続出。
 そのワールドカップは引き続き「タータン・アーミー」ことスコットランドのサポーターが大センセーションを巻き起こし、今週彼らはボストンからマイアミに移動。 ボストンでは市民が「来年も来てほしい」、「住んでほしい」と彼らの旅立ちを惜しみ、ボストン市長はグラスゴーと姉妹都市の提携を結んだほど。 マイアミへの移動の機内でもCAと歌って踊った彼らは、マイアミ到着後はMLBマイアミ・マーリンズのゲームにバグパイプの行進で登場。ここでも80年代、90年代の懐メロポップを大合唱し、 マイアミアンにも大歓迎されたけれど、スコットランド・チームがブラジルに3-0で敗れ、自力でのノックアウト・ステージ進出の道が絶たれたことから、各グループ3位の動向が注目されるのが現在。
 そんな中、FIFAとアメリカ政府に冷遇され、厳しいコンディションを強いられながら善戦するイラン・チームには同情とサポートが集まり始め、 SNS上ではイラン・チームが米軍爆撃で死亡した168人の女子小学生追悼のために練習試合前に女児用のバックパックを持って抗議した様子、 政府抗議デモ参加者を逮捕したイラン政府に抗議して選手が国歌を歌わない様子等、国内外の政治で板挟みになる彼らの実情が報じられていたのが今週。 イランの女児被害者については、トルコ選手団もアメリカ入国の際に「168」のピンをつけて暗黙の抗議をしていたけれど、今週LAで行われたベルギー戦後に多くのサッカーファンの胸を打ったのが、 「我々はプライドを持ってLA入りし、誇りを持って闘い、誠実さを示して立ち去る。我々を迎えてくれたロサンジェルス、ありがとう」というイラン・チームがロッカールームに残した手書きのメッセージ。
 彼らが滞在するメキシコでは「Irán, hermano / イランは兄弟」というチャンティングでサッカーファンが盛り上がりを見せており、 FIFAとアメリカ政府への批判が高まるにつれて、イラン・チームへのサポートが高まるという主催者側にとって最悪のシナリオが巻き起こっているのだった。



ロゴ抹消ブランドの逆襲


 ワールドカップは開幕から二週間が経過したけれど、既にウィキピディアに現れたのが「List of 2026 FIFA World Cup controversies/2026年ワールドカップ物議リスト」というページ。 VISA問題から、前述のイラン・チームへの冷遇、雨天でも、屋根と冷房施設があるスタジアムでも導入されるハイドレーション・ブレーク、高過ぎるチケット価格疑惑などが列挙され、今後もその内容が増えるのは確実視されるところ。
 現時点で各方面から指摘されているのは、今大会が事前予想をさらに下回る経済効果になる見通し。フォーブス誌の調べによれば、開催各地のホテルの75%が例年の夏休みシーズンよりも売り上げが下がっていると報告。 最もワールドカップの恩恵を受けるマイアミでも45%のホテルが同様の回答。カンサスシティでは90%のホテルがビジネス不振を訴えており、航空業界も昨年から始まった「トランプ・スランプ」がさらに深刻化。 欧州からの旅行者が前年比で14%、カナダからの旅行者24%減少。TV中継では各国から沢山のサポーターが押し寄せているイメージであるけれど、 移民の国アメリカでは他国のジャージーを着てスタンドを埋めているサポーターが自身のルーツ、親の母国を応援するアメリカ人であるケースが多く、実際のところ FIFAが再販業者を通じて売り払った残留チケットを購入して観戦出来るのはもっぱら米国内のファン。

 今大会はビジネス最優先のFIFAの姿勢が批判を集めているけれど、それを象徴する1つがスポンサー以外の全ての企業ロゴを禁止する徹底ぶり。 そのせいでリーバイ・スタジアム、ジレット・スタジアムは、スタジアム外壁ロゴをカバーで覆わなければならず、スタジアム内ではハインツ・ケチャップからキッコーマン醤油までもがそのロゴを 黒いテープで隠される有り様。同様のロゴ隠しはスタッフやプレーヤーが使用するBeats by Dreのヘッドフォンでも起こっている事態。
 しかしリーバイスやハインツはこの状況を逆手に取り、リーバイスはワールドカップ期間中のTikTokのオフィシャルロゴや街中の広告を白いカバーで覆われたバージョンに変更。ハインツは ロゴを塗りつぶしたパッケージをワールドカップ仕様として売り出し、何方もSNSとメインストリーム・メディアでヴァイラルとなったことで、FIFAに一銭も払わずして莫大な広告効果を獲得。 FIFAの金権ポリシーに対抗する様子が消費者の好感度を大きくアップさせているのだった。
 ちなみに従来のワールドカップでスタジアム・ロゴをカバーする事態が起こらなかったのは、FIFAがこれまで開催地選びの条件として新しいスタジアム建設をホスト国に要求してきたため。 日本も2002年にホストした際には埼玉スタジアムを含む7つのサッカー・スタジアムを新設。 しかし過去14大会中、12大会でホスト国が赤字に終わる事態を受けて、 今大会から排除したのが新スタジアム建設の条件。  アメリカでは現在オフシーズンのNFLのスタジアムが会場として使われており、サッカー・フィールドより幅が狭いフットボール・フィールドをサッカー用にコンバートしていることから、 フィールド内の選手スペース周辺が通常より狭いことが指摘されているのだった。



”払うものを払え!カップ”


 今回のワールドカップはチケット代だけでなく、スタジアム内のフードやドリンクが高額なことでも知られ、テキサスのスタジアムで販売される冗談でも美味しいと言えないブリトーの価格は23ドル。 ペットボトルの持ち込みが禁じられたことで、スタジアム・ゴーワーがどうしても買うことになるドリンク類は、水のボトルが5ドル、ソーダが8ドル、ビールは20~26ドルで、NYのホテル・バー並みのお値段。 高額なのはグッズも然りで、チームUSAのジャージーは130ドル、シンプルなFIFAのTシャツでも60ドル。
 ワールドカップのインバウンド旅行者の大半は欧州からであるけれど、ヨーロッパ人と言えば”チープ・チッパー”で、下手をすると払わないのが彼ら。 しかしアメリカでは所得税が掛からないチップ収入を給与として計算する飲食店が多いとあって、欧州からの旅行者のノー・チップは飲食店のサーバーにとって死活問題。  そのためワールドカップ期間中限定で、ニューヨーク、フィラデルフィア、アトランタといった開催地では、飲食代にあらかじめ20%のチップを乗せて会計伝票を作成する店が増えて居るのだった。
 そうかと思えばアルゼンチン政府は、養育費を滞納している約1万3000人(殆どが父親)のデータベースをアメリカ政府と大会警備機関に提供して、ワールドカップ観戦阻止を要請。 「高額なチケット代や海外への渡航費を負担できるなら、養育費を払え」というのがこの措置で、厳重警備のスタジアムでチェックリストに名前があれば入場が拒否されるシステム。 もちろん未払いの養育費をオンラインで完済すれば、リストから名前が削除され、直ぐに観戦可能になるとのこと。何故出国の際の水際でこれを行わないのかには意見が分かれるけれど、 現地で観戦ムードが高まった段階で入場を拒否される方が、未払い金の支払いに積極的になるのは事実なのだった。

 こうして支払を渋る人々からも、どんどんお金を払わせる今回のワールドカップであるけれど、FIFAが喜んでお金を払うのが他ならぬトランプ氏。  FIFAは昨年中からNYのトランプ・タワーの17階全体をオフィスとしてレンタル。多額の家賃をトランプ・オーガニゼーションに支払っているものの、 中身は空っぽで、要するに家賃はトランプ氏への賄賂。トランプ・タワーは別居中のメラニア夫人が現在も住んでいるため警備が厳しく、デリバリーさえまともにオーダー出来ないことから 住人が寄り付かない物件になって久しいのだった。
 FIFAは今大会の経済効果を総額400億ドルと謳って来たけれど、いざ大会が始まり各方面から期待外れの数字が上がってきた現時点での 独立機関による経済効果の見積りは130~139億ドル。マイアミやNYであれば黒字開催の可能性が高いものの、 3億8000万ドルを投じたトロント、5億ドルを投じたヒューストン等は赤字覚悟。  一方のFIFAとワールドカップ放映局のFOXは、ハイドレーション・ブレークによってさらに増えたCM放映時間で、30秒CM1本当たり20~70万ドルを請求。濡れ手に泡の大儲けをしているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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