アメリカのSNS上で9月にヴァイラルになったのが、テキサス州ダラスのフォートワース空港のロスト・バゲージを配達する81歳のドナルド・ジョンソンの姿。
配達先ドアカムで捉えられたような画像で、両手に重たいスーツ・ケースを持ち必死に階段を登ろうとする彼の様子は、
同じ年代の父親や祖父を持つ人ならば誰もが同情するもの。
彼が何故そんな体力的に辛い仕事を続けるのかと心配したのが、隣人女性のエリン・ハウェル。
事情を聞けばジョンソンの57歳の妻、ジョセフィンはすい臓がんを患っており、その治療費を支払うために彼は3年前から、
本来なら免許を返納しても不思議ではない年齢にも関わらず 1日12~14時間、300~400マイルを運転して空港のロスト・ラゲージを配達しているとのこと。
車を停めた場所から玄関まで重たい荷物を持って歩くのも毎日の仕事のうちで、同情したエリンがアメリカのクラウドファンディングの最大手、
GoFundMeでスタートしたのが”Help Don Retire”の募金集め。
あっという間にヴァイラルになったこの募金集めは、40万ドルを集めた時点でメインストリーム・メディアに取り上げられ、
それによってさらに寄付が寄せられた結果、目標額を遥かに上回る74万ドル以上を集めるに至ったのだった。
ガン治療中の妻と共にTV各局からの取材を受けたドナルド・ジョンソンは、「これで妻の治療費が払える、そしてリタイアすることが出来る」と涙ながらに語りながらも、
「これまで自分がやって来たことに誇りを持っているいるし、自分と同じ状況の人々を助けたい」ともコメント。
このストーリーは病気の妻思いの81歳の男性をリタイアさせた美談として終わる気配を見せていたのだった。
ところがその直後に報じられのが、GoFundMeがドナルド・ジョンソンのための募金をキャンセルし、全額を寄付者に返金するというニュース。
当初「ルール違反が認められた」とだけ説明されていたキャンセル理由は、寄付を集める発起人であった隣人のエリン・ハウェルという女性が、
実はエイミー・ジョンソン、ドナルドとジョセフィンの実の娘であったため。
エイミーが架空の隣人、エリン・ハウェルを名乗った理由は家族ではなく、他人の方が寄付が集まり易いと判断したためで、荷物を運ぶ父親の動画をドアベル・カメラの映像として撮影したのも彼女。
それ以外の父親の厳しい労働環境や、母親のガン、治療費が嵩んで父親がリタイア出来ないことなどの詳細は全て事実。
しかしGoFundMe側は、「当社の信頼・安全チームが、利用規約に違反する事実誤認を発見しました。その結果、当該募金活動は削除され、
すべての寄付者には返金されました。GoFundMeが安全で信頼できる支援の場であり続けることは当社の最優先事項です。
このような措置を講じることで、GoFundMeは寄付者を保護することができます。」という説明で、
寄付は全額返金され、ドナルド・ジョンソンのリタイアもキャンセル。
ぬか喜びをさせられた分、高齢の夫妻がかえって精神的に厳しい思いを強いられることが懸念されているのだった。
これに対するリアクションは、「トランプがもっと重要で深刻なウソを毎日のように国民に語り続けているのに...」と娘のエイミーのフェイクIDを
大目に見る声がある一方で、かつてGoFundMeがフェイク美談で多額の寄付を集める詐欺行為加担仕掛けた過去があるだけに、
GoFundMeが例外なくルール違反を取り締まる姿勢は妥当という声が多いのが実情。
GoFundMeを悪用した誰もが知る詐欺事件は、ハイウェイでガス欠で立ち往生した女性が、元軍人のホームレス男性に救われ、後日女性とボーイフレンドが
彼のためのクラウドファンディングを立ち上げ、100万ドル以上の寄付を集めたという2017年の事件で、当初は大きく報じられた美談。
しかしこの募金はヤラセで、最初から仕組まれた茶番。
集まった多額の寄付でカップルがで豪遊し、その分け前を払わないことに腹を立てたホームレス男性が「自分に集まった寄付が悪用されている」
と訴えたことから、3人が以前から知りあいだったことが発覚。もしカップルがきちんと分け前を支払っていたら、バレずに終わったはずの詐欺行為なのだった。
ドナルド・ジョンソンのために寄付をした人々の中には、エイミーが偽のIDをでっち上げたことで、
「寄付を集めるために騙された」と感じる人は少なくないようだけれど、エイミーは新たに自分のIDで、顔出しをしながら
両親の現状を説明する募金集めをスタート。以前ほどの勢いはないものの、数万ドルを集めたとのこと。
とは言ってもこの件で本当に人々の関心が注がれるべきだったのは、現在アメリカで75歳以上の9%、すなわちほぼ10人に1人が何らかの労働に従事している、もしくは職を探している現状。
物価や医療費が高過ぎて、高齢者がリタイア出来ずに、働き続けるのは深刻な経済問題であり社会問題。
しかも高齢になればなるほど、肉体労働で給与が安価な仕事しかないのはどの先進国も同じ状況。
その問題に人々の関心が向けられたタイミングで、人々の関心がクラウドファンディングの規約に摩り替わってしまったことで、大切な問題が棚上げされたような後味が悪い思いをした人々は決して少なくないとのこと。
親を思ってのエイミー・ジョンソンのウソでしたが、同じ思いをする人びとへの救いの手を遠ざけるものになったのは否めない印象です。


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