Dec. Week 3, 2022
“Cocktail of the Moment & 2022”
空前のトレンディング・カクテル、ネグローニ・スバリアート


少し前に友人と夕方に待ち合わせた際に、落ち合うことにしたのがウェスト・ヴィレッジのダンテ。
90年代にダンテに通った思い出がある私にとって、ダンテはカフェのイメージが強かったけれど、同店はワールド・ベスト・バーのNo.2に選ばれる由緒あるバー。 そこで私が初めて耳にしたのが ネグローニ・スバリアートというカクテル。 実は私はワインとシャンパンは好むものの、極力飲まないようにしているのが余分な糖分とカロリーを摂取してしまうカクテル。 それでもネグローニ・スバリアートをトライしてみようと思ったのは、友人に「えー、知らないの? 今 皆飲んでるのに~」的に このカクテルが今トレンディングであることを知らされたためで、 職業柄 流行り物は何でもトライするポリシーの私は、何がミックスされているかも知らないままオーダーすることにしたのだった。




今ではカクテルを飲まない私も 一時はマティーニに凝ったこともあって、目分量でグラスにピッタリの量が作れることを自慢にしていたほど。 マティーニが作れるくらいなので 一応 ”ネグローニ” というカクテルが存在することくらいは知っていたけれど、調べてみるとネグローニは 2022年の世界人気カクテルNo.1。 果たして このランキングが昨今の ネグローニ・スバリアートの突如のメガ・ブレークを含めたものであるかは不明。一応トップ10を紹介すると以下の通りになっているのだった。

ちなみに私が大学時代に起こったカクテル・ブームで頻繁にオーダーしたモスコ・ミュールはNYでは 殆ど見かけないカクテル。 ダイキリになるとNYでは もはや”死語”。モヒートを見かけると”懐かしい”と思えるのが現在のNYで、 カクテルも時代を反映して変わっていると言えるのだった。




さて、本題のネグローニ・スバリアートとはイタリア語で「間違えたネグローニ」という意味。 本来ネグローニというカクテルはジン、ヴェルモット、カンパリを同じ分量でミックスして、オレンジ・ピールを添えるカクテル。 ところが1972年にミラノのバーテンダー、ミルコ・ストチェットが ジンと間違えてプロセッコを注いでしまったことから生まれたのがこのカクテルで、 間違えがそのままネーミングになってしまったのが誕生のストーリー。
パイ生地が生まれたのもタルト生地にバターを入れ忘れたパティスリーが、生地にバターを織り込むようにミックスしていった結果と言われるけれど、 そのルーツが単なる間違えだったというフードやドリンクは決して少なくないのだった。

ネグローニ・スバリアートが突如トレンディングになった理由は TikTokのヴァイラル・ビデオ。 今時のトレンドは全てTikTokから生まれていると言っても過言ではないけれど、ネグローニ・スバリアートのヴァイラル・ビデオは 現在HBO/Maxで放映中の 「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」に出演中のオリヴィア・クックによる 共演者のエマ・ダーシー(写真上右)へのインタビュー。その中で “What’s your drink of choice?” と尋ねられたエマが答えたのが “A Negroni Sbagliato, with Prosecco in it.” それに対してオリヴィアが “Ohhh, Stunning!” とリアクションを返すビデオが あっという間に1200万のビューイングを記録したのが10月のこと。
以来、爆発的な人気となったのがネグローニ・スバリアートで、 ニューヨークのバーの中にもこのカクテルをメニューに加えて プロモートするところが増えているのだった。




ネグローニ・スバリアートは前述のようにジン、ヴェルモット、カンパリを同量ミックスするだけなので、TikTok上にはそのメイキング・ビデオも 何万という数で存在しているらしいけれど、その中にはアレンジ版も多いよう。 調べてみると私がダンテで味わったのもネグローニ・スバリアートではなく、ゴールデン・スバリアートというドリンク。 これはカペレッティ、チンザノ・ロッソ 1757、イタリカス、プロセッコのミックス。 実は 私はカンパリ・ベースのカクテルを美味しいと思ったことは生涯一度も無かったので、私がダンテで味わったスバリアートの中に カンパリが含まれていなかったことには妙に納得してしまったのだった。
そのためネグローニ・スバリアートをフェイバリットとして紹介するのは不適切かと思ったけれど、 少なくとも味わった時はネグローニ・スバリアートだと思っていたのに加えて、このカクテルとそのアレンジ版が近年稀なカクテルのメガ・トレンドになっている という点では取り上げる価値があると思っているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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