Feb 9 ~ Feb 15 2025

Which worries you more, egg shortage or Musk?
"卵が買えない庶民と政府から1日800万ドルを稼ぐ富豪


先週日曜にエアフォース・ワンでスーパーボウルに向かう機内で、”Gulf of Mexico/メキシコ湾”を、 ”Gulf of America/アメリカ湾” に変更する大統領令にサインしたのがトランプ大統領。 これを受けてグーグル・マップはアメリカ国内の検索結果表示を「Gulf of America」に変更しており、 今週「Gulf of Mexico」の名称を使ったAPのジャーナリストを、プレスルームへの立ち入り禁止処分にしていたのがホワイトハウス。
その一方、このところ不法移民の逮捕者が増えないことにフラストレーションを募らせていたのがトランプ政権。 先週には不法移民拘留施設に使用しているキューバのグァンタナモ基地に、僅か13人の不法移民しか搭乗しない軍用機が飛んだことがレポートされ、 軍用機は民間機の約4倍以上のコストが掛かるとあって、これは大赤字。
その原因がICE(移民関税執行局)の手入れ情報が洩れているためと判断した国家安全保障省は、 ICE職員による私服捜査をスタート。以来、複数の州で 偽のICEの捜査官が不法移民に対して、身柄拘束を見逃す代わりにセックスを強要したり、金品を奪う犯罪が起こっており、 逆に本物のICEに手入れを受けた店のオーナーは、なかなかIDを提示しない捜査員を強盗と勘違いする有り様。
現在ICEは大統領令により、学校、オフィス、病院といったセンシティブな場所でも抜き打ち捜査を行う権限が認められているけれど、 これに対してトランプ氏の支持母体の1つであるキリスト教会が、複数の州で起こしているのが ICEの教会立ち入り禁止を求める訴訟。
トランプ大統領就任以来、今週までにトランプ政権を相手取って起こされた訴訟は50件を超えており、そのほぼ全てが議会承認が必要な政策や 議会が定めた予算をトランプ政権、特にDOGEが独断でコントロールする違法性、違憲性を訴える訴訟。 トランプ政権は既に下された判決の1つを無視し、 司法省と各州の連邦裁判所に圧力を掛け始めたことから、このままでは司法、行政、立法の三権分立が崩れることを危惧し始めたのが司法サイド。 立法を掌る議会は トランプ氏を支持、もしくはトランプ氏を恐れる共和党議員が過半数を占めているとあって、その危機感がもっぱら民主党内に止まっているのだった。



卵が買えない!


今週水曜にはアメリカの消費者物価指数が発表され、それによればアメリカでは前年比3%のインフレが進んだことになり、 最も値上がり率が高いのはレントを含む住宅費。次いで食料品で前年比2.5%の上昇。 しかし多くの国民にとって、2.5%という数値は、「そんなはずあるか!」と言いたくなる低い数値。
私自身、これまでホールフーズで50ドル程度を支払っていた食材費が、今年に入ってからは60ドルにアップしており、 中でも鳥インフルエンザの影響で 値上がりが激しいのが卵の価格。今週のNYでは遂に1ダースが12ドルを超えて、卵1個が1ドル以上。
それでも買えればまだ良い方で、多くのストアで完売状態、もしくは来店客1人につき1ダースの購入制限が掛かっているのが現時点。 アメリカの平均的な4人家族にとって卵1ダースは2日分程度と言われるのだった。
この事態を受けて、先週から卸売業者の倉庫は卵泥棒のターゲット。業者にしてみれば、安価で割れ易く、輸送に手間取る卵が 盗まれるリスクなどは想定外。鳥インフルエンザ対策費と、卵を守る警備費が、さらに卵価格を吊り上げているのだった。
トランプ大統領は、今週自分のマウスピース・メディアであるFOXニュースが卵価格の高額ぶりを大きく報じたことに腹を立てていたようだけれど、 実際にトランプ支持者が選挙戦中に最もこだわっていたのが卵と牛乳の値下げ。 一方、大富豪のトランプ支持者が望んでいたは規制緩和と大幅減税。しかし大金持ちにとって期待外れをもたらしているのが 市場の不安定とインフレ加速を招くトランプ氏のTariff政策。 今週にはアメリカ最大手のヘッジファンド、シタデルを経営するビリオネアで、トランプ氏の大口ドナーであるケン・グリフィンがトランプ氏のTariffを批判。 ウォールストリート・ジャーナルも トランプ氏が鉄とアルミニウム対する一律25%の関税策を打ち出した混乱を受けて、 「トランプ当選で沸き上がった金融&ビジネス界のユーフォリアは、早くも消え始めた」と報道していたのだった。
こうした景気の先行き不安と、インフレ加速懸念に対して今週トランプ氏が示唆したのが、以前から連銀に圧力を掛け続けてきた ”利下げ”によって現状を乗り切る意向。 しかしインフレを抑制するには緊縮財政、すなわち利上げをするのが金融の常識。2021年にこの常識を破って、利下げによるインフレ対策に出たトルコのエルドアン大統領は、 当時19%だった金利を8.5%に下げたことで、程なくハイパーインフレを招き、2022年には物価が前年比で84%上昇。過去5年間にターキッシュ・リラが、 米ドルに対してその価値を80%失う結果を招いているのだった。
利下げに慎重な連邦準備制度理事会のパウエル議長の任期は2026年まで。しかし経済学者の間では、それまでにさらにインフレが進み、 パウエル議長の後任がトランプ氏の意向通りの大幅利下げを敢行するようなことがあれば、アメリカ経済はハイパーインフレによる通貨崩壊の危機を迎えることが危惧されているのだった。



レッドステーツのレッドフラッグ


今週トランプ氏が造幣局に命じたのが1セント・ペニーの製造中止。理由は1セント・ペニーを作るために3セントの生産費と70セント諸経費が掛かるためで、隣国カナダでは既に2012年にペニーの製造がストップ。 アメリカでもオバマ政権時代から取り沙汰されてきたのがペニーとニッケル(5セント・コイン)製造中止で、実現しなかったのは共和党が反対していたため。 理由はコインの製造を掌るのが共和党支持支持基盤であるレッドステーツであるため。
ペニーは昨年500万ドル相当が生産されており、その大半を担っていたのがテネシー州のグリーンヴィル。ペニーの生産がストップするということは 住民の大半が失業に追い込まれることで、皮肉なことに同カウンティの83%が 昨年の大統領選挙で票を投じたのがトランプ氏。 地元紙は既に決定しているトランプ氏の命令を「提案」と報じざるをえない状況で、DOGEが貧困手当を差し止めている今、厳しい先行きが見込まれるのだった。
またペニーの生産中止によって、クレジット・カードやアップル・ペイなどのデジタル決済を導入する必要に迫られるのが キャッシュ・ビジネスをしていた小規模な小売店。 しかし小規模ビジネスにとって、売り上げの2~3%を決済手数料として取られるのは大きな負担。この打撃もキャッシュレスが既に進んでいる民主党支持のブルーステーツよりも レッドステーツに大きく降りかかることになるのだった。
一方、イーロン・マスク率いるDOGEは、バイデン政権がクリーン・エナジー政策の一環として、製造工場へ支給するはずだった助成金を差し止めてしまったけれど、 これは使用燃料削減や、再生燃料へ切り替えのための設備投資をサポートする資金で、その80%の行先がレッドステーツの工場。既に議会が承認した予算なので、 国には支払い義務があるにも関わらず、DOGEに「無駄」と判断されて 差し止めになったことから、レッドステーツの工場主達はローンの支払期限を控えて大パニック状態。
同じことはレッドステーツの農場でも起こっており、バイデン政権が環境対策費から捻出していた農業補助金を、環境問題を毛嫌いするトランプ氏のためにDOGEが切り捨てたことから、 小規模農家がX上で盛んに訴えているのが、「このままでは農地を手放す羽目になる」という悲痛な叫び。
更にレッドステーツにとって 悪夢をもたらしているのが トランプ氏のTariff政策。 「これ以上関税で脅されながら ビジネスを続ける訳にはいかない」と、カナダの企業が オクラホマ州最大のコットン輸出契約を破棄。替わりにブラジルのコットン業者と契約を結んだことが伝えられ、フロリダのオレンジ・ジュース、ケンタッキー・バーボンも既にカナダのボイコット対象。 加えてカナダではアメリカへのバケーションを控える運動が盛り上がっており、カナダはアメリカに毎年最多の旅行者を送り込む国。このことも観光収入に頼るレッドステーツには大打撃になるのだった。
悲劇はそこでは終わらず、イーロン・マスクがUSAID(米国際開発局)のプログラムを、ほぼ完全閉鎖したことから大打撃を受けようとしているのがレッドステーツの農産業。 そもそも対外支援で送る食糧やメディカル・サプライは、アメリカ国内での調達。例えばUSAIDの ”フード・フォー・ピース” のプログラムは、年間40億パウンドにも及ぶ 国内生産の大豆、レンズ豆、米といった農産物の大切なバイヤー。そのプログラムをカットして資金を差し止めれば、生産農家が大量の在庫を抱えて倒産の危機を迎えるのは誰にでも分かること。 現在、共和党議員は何とか地元農家を救おうと試みているものの、「海外支援そのものが無駄」というのがDOGEの見解なのだった。
今週火曜日にはDOGEがスタートして以来、初めてイーロン・マスクが大統領執務室でプレスの質問に応じたけれど、そこに連れて来たのが ”X” の愛称で呼ばれるマスクの4歳の息子。 そして子供をあやしながらの質疑応答の中で、マスクがあっさり認めたのが 200以上のツイートで彼が批判したUSAIDの資金の使い道について「誤情報を発信したかもしれない」ということ。
その会見中には、退屈したXが鼻の穴に突っ込んだ指を 潔癖症で知られるトランプ氏のデスクに擦り付けた様子がネット上でヴァイラルになっていたけれど、 その席でトランプ氏がサインしたのがDOGEに更なる権限を与える大統領令。 加えてマスクは今週月曜に、スペースXで新たに3850万ドルの政府契約を獲得。国務省とは 装甲版テスラを4億ドル分購入させる契約を取りつけており、 2015年以来、180億ドル以上の連邦政府契約を結んできたマスクが、国民の税金で更にリッチになったのが今週。
ちなみにマスクが経営するテスラを始めとする6つの企業に対しては、32件の連邦捜査が進んでいたけれど、 DOGEがこれまで閉鎖と解雇を進めて来たのが、その捜査を担当していた11の政府機関。 民主党議員が今週議会で怒りを露わに指摘したのが、マスクが現在アメリカ政府から1日800万ドルの契約金を得ていること。 それに対して生涯働き続けたアメリカ国民が受け取る平均的な社会保障金は1日67ドルとのことで、しかもそれが何時DOGEによって差し止めや減額の対象になるか分からないのだった。



カニエ・ウエスト & AI 物議


現在のアメリカで、トランプ氏とイーロン・マスクと並ぶ物議を醸すのは至難の業と言えるけれど、それをやってのけたのがラッパーのカニエ・ウエスト。
彼は常軌を逸したアンチ・セメティック(反ユダヤ教)ポストを狂ったようにソーシャル・メディアにポスト。 それでは飽き足らず、スワスティカ(ナチスの鍵十字)をフィーチャーしたアパレルを自らデザインして ウェブサイトで販売し、 大批判を浴びたけれど、そもそもウエストは2022年にも同じようなアンチ・セメティックの暴言を繰り返して アディダスとのブランド契約が打ち切りとなり、 ビリオネアから脱落しているのだった。
しかし、今回はメタがトランプ氏の意向を受け入れてセンサー・フリーの状態。Xはイーロン・マスクによる買収以来、フリース・ピーチを奨励した結果、既に人種差別発言だらけ。 そのため度重なる暴言にも関わらず、野放しが続いたのがウエストのSNSアカウント。 やがて苦情が殺到したXでは、一次的にアカウントが閉鎖される措置が取られたけれど、 常識が伴わないフリー・スピーチが如何に危険であるかを 人々に痛感させたのがウエストの奇行。 そんな差別や侮辱の嵐に対して、今度はユダヤ系アメリカ人の団体が反撃に出たけれど、 それが招いたのが更なる大物議。
その反撃とは ラッパーのドレイク、スティーブン・スピルバーグ監督、マーク・ザッカーバーグ、フレンズのリサ・クドローとデヴィッド・シュイマー、 往年コンビ、サイモン&ガーファンクルといったユダヤ系のセレブリティが出演するモノクロのTVコマーシャル。 全員が、ユダヤのシンボル、ダビデの星をフィーチャーした中指を立てたマークと KANYEの名前が入ったTシャツを着用し、カニエ・ウエストが制作した反ユダヤ Tシャツに対抗しているけれど、 このCMが物議を醸した理由は、映像がジェネレーティブAIによって生成されていたため。
もちろん本人達の許可を得ての画像生成ではあったものの、「AI Generated」の表示が画面に無ければ、 セレブリティ本人が出演していると勘違いするほど精巧な画像。
それに警鐘を鳴らした1人がユダヤ系アメリカ人のスカーレット・ジョハンソン。 「ユダヤ人として反ユダヤの偏見とは何があっても闘うけれど、へイト・スピーチにAIが使われる方が遥かに恐ろしい」 と語り、セレブリティの生成画像をCM等に気軽に用いるリスクを強調。
アメリカでは、既にAIによって生成されたセレブリティの声を使った詐欺事件が起こっており、 本物と見分けがつかない生成AIによる自分の画像が、何にどう悪用されるかを最も恐れているのがセレブリティ。
言論の自由に対しても、生成AIを使った表現の自由に対しても、常識的な規制を求める声が高まっていたのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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