June 6 〜 June 12, 2022

"Primetime Hearing & TikTok Trial, Etc."
プライムタイム公聴会、サウジ・ゴルフリーグ、デップ VS. ハードのTikTok裁判、Etc.


ガソリン価格の上昇に歯止めが掛からないアメリカでは、今週末1ガロン当たりの平均価格が遂に史上初めて5ドルの大台に乗ってしまったけれど、 同じく今週発表された5月の消費者物価指数によれば インフレーションは前年同月比で8.6%の上昇を見せ、ガソリンは前年同月比で約49%、食料品は約12%の値上がりを記録しているのだった。
そんな中、木曜のプライムタイムに放映されたのが 2021年1月6日に起こった議会乱入事件の下院調査委員会による ライブの証人喚問を含む特別番組。1年以上を掛けた捜査で集められた1000人以上の証言、未公開のビデオ、ボディ・カム映像を交えた2時間以上に渡るプログラムで明かされたのが、 2020年11月の大統領選挙後に ビル・バー司法長官を含むトランプ氏の側近、及びイヴァンカ・トランプ、ジャレッド・クシュナーといったトランプ氏の家族が トランプ氏が選挙に敗れ、不正選挙が無かったことを認識しており、トランプ氏にそれを告げていたこと。 にも関わらずトランプ氏が選挙結果を覆すために、マイク・ペンス副大統領に選挙結果を認めないよう圧力を掛ける一方で、 プラウド・ボーイズ、オース・キーパーといった白人至上主義者のグループによる議会乱入が事前に計画されていた事実。
当時の生々しい初公開映像は、「愛国者による平和的なイベント」と語るトランプ氏の言い分とは程遠い 暴力的かつ野蛮なもので、 多くの乱入者がペッパー・スプレーやバット等の武器を使って警官や警備員に襲い掛かる 常軌を逸した様子を描いており、当時議会内に隠れて怯えていた議員や報道陣の間では 当時の恐怖を思い出して涙ぐんだり、怒りを再燃させるリアクションが見られたほど。 調査委員会による公聴会、及び調査報告は、今後あと6エピソードがTV放映されることになっており、 これに対しては事件を「愛国的な抗議活動」として片づけ、「調査委員会が政治的魔女狩りを行っているだけ」と主張する共和党側と、 議会乱入を「民主主義を脅かす歴史的悪夢」と捉えて、不正選挙が無かったことを知りながら国民を欺いた トランプ氏、及び一部の共和党議員の責任を問いたい民主党側で そのリアクションが真二つに分かれているのだった。



ミケルソンがサウジ・ゴルフ・リーグに加担する本当の理由!?


今週のスポーツ界での最大の物議になったのが、PGAツアーがフィル・ミケルソン、ダスティン・ジョンソンといったスタープレーヤーを含む合計17人に対して懲戒/出場停止処分を発表したこと。 理由はPGAの規定を破ってサウジアラビアが新たにスタートしたゴルフ・リーグの初戦、LIVインヴィテーショナルに出場したため。サウジ政府の資金で運営されるこのリーグは、 公式トーナメントが合計54ホールで争われることから 「54」のローマ数字表記「LIV」をネーミングにしたもの。 サウジ・ゴルフ・リーグは過去数年に渡って1億ドル以上を投じてPGAプレーヤーのリクルートを行っており、 これを脅威に感じたPGAは サウジによる人権弾圧問題等を理由にそのトーナメントへの参加禁止規定を設ける一方で、 PGAの賞金総額を引き上げて 選手移籍を防ぐ試みをしてきたのだった。
PGAプレーヤーの中で 特に声を大にしてLIVをサポートしてきたのがPGAのスーパースター、フィル・ミケルソン(51歳)。 ミケルソンと言えばギャンブル癖で有名で、2010〜2014年には4000万ドルをギャンブルで失い、2016年にはギャンブル負債を返済するための インサイダー取引疑惑が浮上。ギャンブル癖が原因で長年のキャディを失っており、彼のギャンブル負債はこれまで報じられてきた以上の規模であることが 程なく出版されるミバイオグラフィーで明かされているのだった。 そのため賞金額、トーナメント出場ギャラが高額なサウジ・リーグに彼が移籍する理由はギャンブルの損失を取り戻すためという見方は極めて有力。 しかしミケルソン自身は「サウジ・リーグの存在は PGAの歪んだ体質を改善させるための千載一遇のチャンス」と主張しているのだった。

ミケルソンによれば「サウジアラビア政府がジャマル・カショージ(ワシントン・ポスト紙のジャーナリスト)を殺害し、人権弾圧の長い歴史があり、ゲイというだけで人を処刑するような恐ろしい連中であることは理解している」 とのこと。しかしPGAツアーも 利益をプレーヤーに還元せず、厳しい規定でがんじがらめにすることで知られる悪名高いプロリーグで、これまでプレーヤーはそれに逆らう資金も手立ても無く、 ただ言いなりになるしかない状況。 それがサウジのリーグの登場により、初めてプレーヤー側にPGAと闘う手段がもたらされたというのがミケルソンの言い分。
彼が最も問題視していたのは、PGAに所属するプロは自分のプレーの映像権やメディア放映権をPGAに剥奪されてしまうことで、例えばPGAトーナメントでは スポンサーがミケルソンのティーショット放映1回につき100万ドルを支払い、彼1人が1回のトーナメントのティーショットだけで1500万ドルのスポンサー収入をもたらしているけれど、 その収益がミケルソンに還元されることは無いとのこと。 映像権の問題は NFT(ノンファンジブル・トークン)というクリプトカレンシーの登場により 更にプレーヤー達の間で不満が高まる要因になっているのだった。
既にNBA(ナショナル・バスケットボール・リーグ)は、2021年からプレーヤーの名ショット・ビデオのNFTを販売しており、この年だけで6億ドルもの売上を記録。 多くのプレーヤーのNFTが日本円にして数千万円単位で取引されており、もちろん利益はプレーヤー側のもの。加えてNBAはその手数料収益の5%を全プレーヤーに均等配分で支払っているのだった。
同様のNFTによる収益アップはNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)でも行われており、NFTに多大な財産価値が認められる今、プロ・アスリートにとって自分のプレーのハイライト映像は重要な財産。 しかしPGAでプレーする限り、その映像を所有出来ないとあれば プレーヤーが別リーグへの移籍を考えるのはごく自然なこと。
PGAはLIVに移籍したプレーヤーを「サウジの金銭待遇に目がくらんだ」と批判しているけれど、金銭に目がくらんでいるのはPGA側も全く同様。 LIVの台頭によってPGAが危機感を覚えるまで その体質が変わりそうにないのは紛れもない事実なのだった。



ジョニー・デップ VS. アンバー・ハード裁判によって司法が茶番に!


2015年に結婚し、その15カ月後の2017年に離婚したのがジョニー・デップとアンバー・ハード。 その離婚から5年近くが経過した2022年4月から6週間に渡って2人が法廷で争ってきたのが名誉棄損の損害買収請求訴訟。 その発端となったのは2018年にアンバー・ハードがワシントンポスト紙に、ジョニー・デップの名前こそは出さなかったものの ドメスティック・ヴァイオレンスの被害者になった経験、 そして世の中のシステムが虐待された女性よりも、虐待する男性側をプロテクトする様子を目の当たりにしたことを 1000ワードに満たない短い論説で寄稿したこと。
丁度その頃はMeTooムーブメントが高まっていた真っ只中で、 ジョニ―・デップ側が 「この論説により自分のハリウッド・キャリアが傷つけられた」として 起こしたのが1億ドルの損害倍書を請求する名誉棄損訴訟。 対するアンバー側もジョニーの弁護士によって名誉を傷つけられたとしてカウンター訴訟を起こしていたのだった。
ジョニ―・デップは2020年にも イギリスのタブロイド紙が彼のことを”ワイフ・ビーター”呼ばわりしたことから名誉棄損裁判をロンドンで起こしており、この時は アンバーが証人として出廷。ジョニー側が暴力を振るった十分な証拠が認められたことから、ジョニー側の敗訴に終わっていたのだった。

今回の裁判が行われたヴァージニア州は、法廷の様子をライブストリームで一般人に公開することが州法で認められており、 ハリウッド・スター2人が出演する裁判の様子は毎日のようにライブ放映され、2人の法廷ファッションから、双方のドラッグ&アルコール中毒ぶりを立証する証拠、 双方の暴力に関する証言などが、日を追うごとに裁判というよりもエンターテイメント性を帯びてきたのがこの裁判。 アンバーがジョニーに殴られた顔のアザの写真を披露し、「コンシーラーでアザを隠してトークショーに出演しなければならなかった」と証言すれば、 ジョニ―も「アンバーによる暴力は灰皿が飛んでくること」と証言。お互いのイメージを著しく傷つけ合っていたけれど、 ソーシャル・メディアのリアクションで圧倒的に優位に立っていたのはジョニー・デップ。
やがて法廷の外にはファンが彼の応援に駆け付けるようになった一方で、アンバーに対しては「アクアマン2」のキャストから彼女を下ろす署名運動が起こるなどバックラッシュがどんどん激しくなっていったのだった。 それと同時に人気が急上昇して行ったのが証言台に立ったアンバーをやり込めたジョニーの女性弁護士、カミール・ヴァスケス。やがて彼女とジョニーとのロマンスが噂され、 すっかりスター・ロイヤーになってしまったのがヴァケス弁護士。
そして6月1日水曜日に 男性5人、女性2人から成る陪審員が下したのは事実上、ジョニー・デップの訴えを認め、アンバーに対して賠償金1500万ドルを支払うように命じる判決。 同時にアンバー側が訴えていた名誉棄損も一部認められ、200万ドルの損害賠償の支払いがジョニー側に命じられたけれど、 裁判後に法廷関係者が明らかにしたのが、「法廷では毎日のように複数の陪審員が居眠りをしていた」というやる気が無い様子。 そんな陪審員たちに多大な影響を与えたと言われるのがTikTokで、陪審員はソーシャル・メディアをチェックしたり、友人や家族と裁判について話し合うことを禁じられてはいるものの、 それを破ったところで何の法的罰則も定められていないのだった。



Tik Tok 裁判の茶番 


ジョニ―・デップVS.アンバー・ハードの裁判は、過去に例を見ない”トライアル・バイ TikTok”、すなわちTikTok上で裁きが行われた裁判と言われたもの。
裁判が進むに連れてTikTok上に溢れて来たのが、アンバーが主張する性的、肉体的、感情的な虐待をパロディ化するビデオの数々で、 彼女やジョニーの証言ビデオを編集したジョーク等が数多く出回り、TikTok上で嘲笑の的になってしまったのがアンバーの訴えた被害。 加えて彼女を嘘つき呼ばわりするビデオも多数登場し、判決が出る遥か以前に既にTikTok上で敗訴していたのがアンバー・ハード。
そもそもTikTokがあっという間に最も影響力の強いソーシャル・メディア・プラットフォームにのし上がったのは、 他のソーシャル・メディアよりも ユーザーのスマートフォンから多くの個人情報を得て、グーグルやフェイスブックの比ではない的確なアルゴリズムで人々の関心とコンテンツを結び付けるため。 アメリカ政府が軍関係者や政府関係者にTikTokの使用を禁じているのも、TikTokのオーナーである中国企業に軍や政府関係者の個人情報が盗まれることを懸念してのこと。
今回のジョニー・デップVS.アンバー・ハードの裁判で立証されたと言われるのが、そのTikTokが 実はツイッターやグーグルよりも遥かにパワフルで洗脳力があるアルゴリズムを使用している事実なのだった。

今回の判決を受けて多く法律関係者が語っていたのが、「アンバー・ハードは確かに好感度が低く 証人として陪審員にアピールしない存在ではあるものの、 一度はイギリスで勝利を収めたドメスティック・ヴァイオレンス訴訟と連動した裁判で、 女性に暴力を振るったジョニー・デップが女性サポーターに圧倒的に支持されたのは、TikTokの洗脳ポストによる影響に他ならない」という懸念。
ジョニー・デップの弁護を務めたカミール・ヴァスケスは今回の弁護の手柄が認められて、法律事務所のパートナーに昇進。彼女も法律事務所側も TikTok上のジョニー・デップをサポートするポストが 「世論の支持を取り付けるための弁護団による画策」という疑惑説を否定していたけれど、これをジョニー側がTikTokのアルゴリズムのパワーを理解して 意図的に行っていたとしても全く不思議ではないこと。 ジョニー・デップは今週、図ったようなタイミングでTikTokデビューを果たし、たった1日で400万人のフォロワーを獲得。裁判を振り返るモンタージュ・ビデオを披露しながら、 彼を支えたファンに感謝のメッセージを送っていたけれど、少なくともこれが証明するのはジョニー・デップ自身も 法廷での自分の勝利がTikTokによってもたらされたことを 認識していること。
今やTikTokは、人気レストラン、ヒット商品、トレンドを生み出す最もパワフルなソーシャル・メディアになっているけれど、 この裁判は世論の扇動にも多大な力を持つことを立証しており、イーロン・マスクによるツイッター買収価格を益々割高に感じさせるエピソードになっているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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