Mar. 21 〜 Mar. 27, 2022

"Food Shortage & USD Status, Etc."
ロシアへの経済制裁が招く食糧不足と、ドル概念の変化, ETC.


今週もアメリカで毎日のようにトップ・ニュースで伝えられてきたのがロシア軍によるウクライナ侵攻。 今週で侵攻から丸1ヵ月が経過したけれど 先週ウクライナ軍の優勢が伝えられてからというもの、徐々に戦況がウクライナ寄りになってきたのは 西側メディアが報じている通り。
週明けの段階からキエフでウクライナ軍がフロントラインを押し返し始めたことが伝えられ、金曜には西側当局者が ウクライナ軍が20のロシア軍地上戦闘部隊を撃破したと報告。 その前日の木曜にはロシアの将軍が自ら率いる軍隊の戦車で轢き殺される事態も起こっており、 今週までに死亡したロシア軍の将軍、大佐、中佐を含む司令官の数は15人。 ロシアの占領下に置かれていたヘルソンでは、ウクライナ民兵による奪還のための反撃もスタートしているのだった。
一方のロシア軍は今週もウクライナ東部のマリウポリの攻撃を集中的に行っており、西側当局者はロシアが今後ウクライナへの全面攻撃を縮小し、 代わりに東側地域に軍隊を集めると予測。「ロシア軍がこのエリアをウクライナのナチス政権から解放した」というロシア国民に対して プーチン大統領の面目を保つシナリオにシフトする可能性をほのめかしているのだった。



ロシア経済制裁が招く世界食糧不足


世界の石油の10%、欧州が消費する天然ガスの3分の1を輸出しているロシアへの経済制裁の影響で、 ウクライナ情勢がどうあれ、来年まで続くと見込まれるのがエネルギー価格の高騰。 ヨーロッパ諸国は今もロシアから石油、天然ガスの輸入を続けているものの、ロシアのメジャー・バンクが国際送金システムSWIFTから締め出されたことで、 これまでとは別の支払い方法の模索を迫られ、その送金コストが末端価格に影響するのは言うまでも無いこと。 さらに石油やガスの輸送も経済制裁の影響で時間とコストが掛かるようになっており、現時点で欧州諸国での石油価格は年明けの段階から144%もアップ。
更にロシアはニッケル、アルミニウム、パラディウムといったメタルの生産大国。ニッケルだけをとってもバッテリーからボートのプロペラ、エレクトリック・ギターの弦まで 様々な製品に使われており、これらの金属を原料としたありとあらゆるプロダクトの値上がりを招くのは当然のこと。 それだけでなく、ロシアは経済制裁に加わった国の空輸便のロシア上空の飛行禁止、及びロシア国内の鉄道を含む陸路での運送もブロック。 NATO諸国もロシアへの輸出品、ロシアからの輸入品を乗せた船の入港をブロックしていることから、 ただでさえコロナウィルスの影響で崩れた物流チェーン問題の更なる悪化は必至。 それが世界的なインフレと商品供給の不安定もたらすことから、ロシアへの経済制裁は NATO諸国を含む世界中に跳ね返ってくるのだった。

中でも最も危惧されているのが食糧不足。ロシアとウクライナは世界の小麦の年間消費量の4分の1に当たる1億200万トンを生産する小麦大国。 特にウクライナはそのイエローとブルーの国旗が 黄色い麦畑と青空を意味するとあって 「欧州のブレッド・バスケット」と呼ばれるほどヨーロッパの小麦供給を賄ってきた存在。 そのウクライナからの小麦はロシア侵攻の影響で輸出がストップしており、ゼレンスキー大統領が 戦争の影響の無いエリアでの例年通りの生産を呼び掛けているものの 生産量激減は避けられない状況。
一方ロシアは小麦以外にも大麦、ライ、コーン等、様々な穀物、及び肥料の大手輸出国。 石油や天然ガスの輸出を続けるロシアが 経済制裁への対抗手段としてまず輸出を禁じたのが肥料で、 2週間前からは輸出用の小麦を積んだ200〜300隻の輸送船がロシア海軍によって黒海で足止めされていることが報じられているのだった。 そのためヨーロッパ、中東、アフリカが小麦不足、穀物不足に陥ると同時に、肥料不足がもたらすのが農業生産の大ダメージ。 更に穀物不足はそれを餌にする畜産業にも大打撃で、1キロの肉を生産するためには7キロの餌が必要と言われるのだった。
最も食糧不足が深刻になると見込まれるのはナイジェリア、フィリピン、ケニア、ミャンマー等、50%以上の国民が貧困で食糧が買えない国々。 これらの国々に年間小麦消費量の20〜30%を輸出してきたのがロシアとウクライナで、 その供給がストップし、穀物だけでなく 他の農作物や食肉も不足して、価格が急騰すれば 必然的に起こるのが政情不安や暴動。
一方、大々的な経済制裁を受けているロシアは、現時点で 戦争前の状態までに経済を盛り返すには2030年までの月日を要すると見込まれるのだった。



ロシアへの制裁でドルの概念が永久に変わる 


現在多くの経済専門家が指摘するのが、「ロシアのウクライナ侵攻をきっかけにお金、特にUSDの概念が永遠に変わる」ということ。
そもそもロシアが強気にウクライナ侵攻に踏み切ったのは、戦争前の段階で世界第11位の経済規模であったロシアが、中国、日本、スイスに次ぐ 世界第4位の 6432億ドルの外貨準備高を擁し、経済制裁に強い環境を整えていたため。 ところが経済制裁によって僅か24時間で そのFX資産の60%が凍結されたのはロシアにとって大きな誤算。 更にロシア中央銀行が擁する1350億ドル相当のゴールドも、買い取れば制裁対象になることから売却不可能な状況。 そんな様子はロシアだけでなく 世界の中央銀行にとってシビアな教訓。アメリカやEU諸国の反発を買えば、所有しているFX資産やゴールドが 無いも同然になってしまうことは、特に台湾に攻め入った場合に同様の制裁が見込まれる中国にとっては厳しい現実を突きつけられた状況と言われるのだった。
しかしその中国はアメリカにとって最大の債務国。これまで中国を含む アメリカと政治的な衝突要因を持つ国でも USドルを世界の準備通貨として保有してきたけれど、今回のロシアへの経済制裁によって世界の中央銀行が認識したのが USドルは もはや”最も安全な資産”ではないということ。 そのため過去5年ほどの間にジワジワ進んでいたUSドル離れが、今後一気に加速しても全く不思議ではない状況のお膳立てが整ったのが現在。 既にウォールストリート・ジャーナルを含む金融メディアでは、世界の中央銀行の準備通貨がドルから他のアセットにシフトすることにより 溢れたドルの影響でアメリカがハイパー・インフレ、引いてはドルの崩壊に繋がるリスクを指摘する声が聞かれるけれど、ここまでの状態になるにはまだまだ時間が掛かるのもまた事実なのだった。

そもそもドルが世界の準備通貨になったのは、1944年に行われた国連金融会議で 当時の加盟44カ国より決議されたためで、この会議によってIMF(世界通貨基金)も誕生しているけれど、 金融の世界では同会議が行われた米国ニューハンプシャー州のブレトンウッズの街の名前を取って、米ドルが世界の準備通貨になった決定を”ブレトンウッズ”と呼ぶのが一般的。 当時の米ドルはゴールドによって価値の後ろ盾がある状態で発行されていたけれど、その金本位制度を廃止したのが1971年のニクソン・ショック。 この段階からアメリカは資産の後ろ盾無しに 国の経済状態に応じて USドルを印刷してきたけれど、現存する米ドルの80%が印刷されるという 恐ろしい規模の金融緩和が行われたのが2020〜2021年に掛けての2年間。 もちろん現代社会では紙幣は実際に印刷されることは無く、デジタル画面上の金額を増やすだけの話であるけれど、 自国の都合でここまで大々的に流通量を増やす通貨を資産として信頼するのは 経済の仕組みをさほど理解していなくても難しいのが実情。
昨今の資産凍結や大々的なインフレを目の当たりにして、世界の中央銀行が認めざるを得ない段階に来ているのが ”Permissionless & Decentralized Money”、すなわちどの国が仕切っている訳でもなく、特定国家の金融ポリシーにも左右されず、誰にも干渉されずに財産として保有できるお金の重要さ。 そうでなければ、現在のような不安定な世界情勢において安全資産とは呼べない訳で、 ロシアへの経済制裁は 他国のCBDC(中央銀行が発行するデジタル通貨)を所有するリスクも大きく浮き彫りにしたと言えるのだった。



クリプトカレンシー、マスアダプションのプロセス


通貨がもはや安全資産と言えないことは国レベルだけでなく、個人レベルでも徐々に認識され始めていること。 ロシアのウクライナ侵攻が始まってロシアン・ルーブルの価値が激減したのは周知の事実であるけれど、ウクライナ通貨のフリブナも国外に逃れたウクライナ人が 避難先の国で大量に現地通貨に換金することでその価値が大きく下落。 それ以前に昨今のインフレの影響で、世界中が実感しているのが通貨による購買力の低下。
歴史的にインフレ・ヘッジになってきたのがゴールドであるけれど、その管理と移動、売却の難しさは有事でなくても指摘されるもの。 3月初旬にはウクライナの外交官が国外に12キロの金の延べ棒、13.8キロのゴールド・ジュエリー、14万ドル+6万8000ユーロのキャッシュを持ち出そうとして没収されており、 ウクライナ政治の腐敗ぶりを世界に披露していたけれど、現物財産を持ち出そうとすれば、それが多ければ多いほど並大抵の努力では運べないだけでなく、苦労して運んでも没収や、捜査、略奪の対象になるのは当然こと。 クリプトカレンシーが世界第五位の普及率を見せるウクライナ国民の多くがUSBのハードウォレットでクリプト資産を国外に持ち出す様子とは好対象となっていたのだった。

そのウクライナでは先週、ゼレンスキー大統領がクリプトカレンシーを国の通貨として認める法案にサインをしたけれど、 ロシア侵攻におけるウクライナを救ったと言われるのがクリプトカレンシー。 3月17日に米国上院で行われたのがクリプトカレンシーに関する公聴会で、ウクライナからリモート証言を行った ウクライナ・ブロックチェーン・アソシエーションのマイケル・チョバニアンによれば、 ウクライナ軍支援の寄付集めのクリプトカレンシー・アカウントを立ち上げるのに要した時間は10分。これに対してフィアット・カレンシー(通常の通貨)のアカウントの立ち上げに要したのは10日。 送金のスピードにしてもクリプトカレンシーであれば 送金直後にアカウントに振り込まれるのに対して、ウクライナのようなバンク・ネットワークに乏しい国家に他国からの通貨が届くまでに要するのは1週間から10日。 ロシア侵攻から1週間で寄せられたクリプトカレンシーの50億円以上が ウクライナ軍にとって重要な資金源となっただけでなく、 クリプト・ウォレットを持つウクライナ国民の避難にも大きく役立ったとのこと。 その一方で、ロシアでクリプトカレンシーを持つ国民の多くが反プーチン派であり、クリプトカレンシーが彼らの生活、及び抗議活動の命綱になっていることを指摘。 民主党のアンチ・クリプト議員が主張する 大手クリプトカレンシー取引所のロシア国内での営業停止が経済制裁の一環として行われた場合、 「ロシア国内の反プーチン派勢力を苦しめるだけ」とも証言していたのだった。
この公聴会では別の証言者から、アメリカ政府が2020年にヴェネズエラのマドゥーロ政権に反発する市民、特に医療関係者に対し クリプトカレンシーをエアドロップすることによって資金援助を行っていた事実が語られ、 出席議員を驚かせていたけれど、同様の他国への資金援助は他のケースでも行われてきたとのこと。 こうした戦争状態や政情不安が他人事に思える国やエリアでも、大規模な自然災害や予期せぬ大事故が起こった場合の寄付集めや個人資産保有の手段となるのがクリプトカレンシー。 ウクライナ侵攻直前には、カナダで 政府のコロナ対策への抗議活動に合法な寄付をした人々が銀行口座を凍結されて物議をかもしたけれど、 そんな「政府の力が及ばない資産を持つ必要性」という見地からも ここへきてクリプトカレンシーの価値が見直されてきているのだった。

人によっては クリプトカレンシーが大きく普及するシナリオで、「アメリカがハイパー・インフレに陥り、ドルが崩壊する」と予言するけれど、 実際には米ドル離れが進んで久しいフィアット・カレンシーの世界よりも、米ドルが圧倒的に強いのがクリプトカレンシーの世界。 というのも世界に流通するステーブル・コイン(通貨と同価値のコイン)の90%以上が USDT, USDC等のドル建てであるため。
2020年の大統領選挙でバイデン大統領に対して2番目に高額な選挙資金を提供したのが クリプトカレンシーの大手取引所FTXのCEO、サム・バンクマン・フライドで、 バイデン大統領は3月初旬に議会に対してクリプトカレンシーへの理解を深める大統領令を発令したばかり。昨今ではクリプト関連の企業がかなり積極的なロビー活動を行うようになり、 国民世論もどんどんクリプトカレンシー肯定的になっているけれど、意外に与党民主党に多いのがテクノロジーを理解しないアンチ・クリプト議員。 クリプトカレンシーの世界では、民主共和を問わずアンチ・クリプト議員を次の選挙で支持しないグラスルーツ・ムーブメントが起こって久しい状況で、 それが今年11月の中間選挙に少なからず影響を与えると言われるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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