Vol.13 June 2 2026
AI Saved Me, When Human Can't...
人間に見放されて、AIに救われた私の経験


 4月末から5月初旬にかけて私のストレス・レベルを極限値に上げてくれたのが、私が利用する2つサービスの合併絡みのトラブル。
1つ目は金融機関で、条件が有利なのでお金を預けていたところ、吸収合併が行われたので別会社のオンライン・サイトにアカウントが移行。 これ自体は昨今のアメリカでは全く珍しくなく、中小企業が生き残りのために統合されるのは仕方がないこと。 問題はその移行プロセスで私のアカウントが消えてしまったことで、カストマー・サポートのAIチャットボットは、AIとは言えトレーニング不足の低レベル。 新会社、旧会社の双方の人間のサポートにメールを送付したけれど、私のことはテクノフォビア(IT音痴)扱いで、パスワードの替え方やアカウント設定のようなごく基本的なことをレクチャーしてくる始末。
 そこでエラーメッセージのスクリーン・ショットを含む、様々な証拠を提示して「先方のシステム・エラーとしか思えないので、 テクニカル・サポートに連絡して欲しい」とリクエストして、ようやく解決したのは問題発生から5日後。 金融系の友人に愚痴ったところ、こうしたマイグレーション・トラブルは珍しくないと言われたけれど、 時を同じくして私はCUBE New Yorkのウェブサイトの原因不明のダウンという更に深刻な合併絡みのトラブルに見舞われていたのだった。


人間のテックサポートが知らない社内事情を教えてくれた”クロード”


 CUBE New Yorkのサイトは、2000年から同じホスト・サーバーを利用しているけれど、サーバー側は何度も合併を繰り返して社名が変わっていて、 つい最近、吸収という形で統合されたのが、世界中のドメインネームを管理するネットワーク・ソルーション。
 その統合自体は2月に問題なく完了していたけれど、突然4月末にサイトがダウンし、 ネットワーク・ソルーションに問い合わたところ、「うちの会社では貴方のウェブサイトはホストしていない」という回答。 現在のホスト・サーバーは、Unified Layerという初めて名前を聞く会社で、何故私の同意無くしてホスト・サーバーが移行したかは、 「Unified Layerへ問い合わせるように」とのこと。 そこでウェブサイトにアクセスしてみると、SSLサーティフィケート(サイト訪問者の通信を暗号化して、第三者による盗聴や改ざんを防ぐ電子証明書)が 失効し、ホームページが全く管理されていない会社で、書き込みサイトのRedditでも「Unified Layerという会社は一体何だ?」と話題になっていたのだった。

 こうなってしまうと頼れるのは優秀なAIということで、私が信頼する”クロード”に相談したところ、Unified Layerはネットワーク・ソルーションを傘下に収める親会社。 それをネットワーク・ソルーションのテックサポートが知らなかったことに唖然としたけれど、”クロード”からは 早急にホスト・サーバーを移行するよう薦められ、その信頼出来る候補として名前が挙がったのが 昨年CUBE New Yorkのミラー・サイトを移行したばかりのサーバー。
 ところがこのサーバーはプラットフォームのテクノロジーが新しいので、CUBE New Yorkが2000年から使ってきたショッピング・カートが動かないという問題があって、 人間のエンジニア2人に相談したものの、その修繕は匙投げ状態。成功補償無しで、多額の請負金を求められる始末。 
 すなわち安全なホスト・サーバーに移すと ショッピング・カートが機能しなくなる訳だけれど、カート自体も昨今、不必要なほど厳しくなっている カード・プロセス会社のコンプライアンス規定に苦しめられていて、セキュリティ・スキャンで問題点が検出されるとペナルティがチャージされるシステム。  そのため私はセキュリティ・スキャンが義務化された昨年から、それがクリア出来て、簡単にシステム移行が出来るショッピング・カートを探し続けていたけれど、 誰もが知る大手Eコマースのショッピング・カートでさえセキュリティ・スキャンをテストしてみると、 CUBE New Yorkより違反事項が沢山出て来る有り様。
 要するにカード・プロセスの会社が、コンプライアンスを厳しくすることで手数料だけでなく、ペナルティでも稼ごうとしているとしか思えない状況なのだった。



AIレイオフが増える理由を見せつけながら、AIが見せる気遣い

 何故私がここで弱小ウェブサイト経営者の愚痴のような話を持ち出してきたかと言えば、そんな人間のプロのエンジニア2人に匙を投げられたCUBE New Yorkのショッピング・カートを、 ”クロード”が修復しくれただけでなく、ITエンジニアが常駐するサイトでさえクリア出来ないセキュリティ・スキャンを一発でパスするという、私にとってのミラクルを達成してくれたため。
 もし新しいショッピング・カートを1から”クロード”に作ってもらうのであれば作業を丸投げ出来たのかもしれないけれど、私の場合は既存のシステムを新しいプラットフォームで機能するように 直してもらう作業。 その所要時間は休憩を挟んで約7時間で、ホストサーバー側のAIに質問し、その答えを”クロード”にフィードバックし、指示に従って書き換えたコードでどんなエラーが出たか、何が改善されたかを 逐一レポートするのは私の仕事。 ”クロード”はサーバーAIが提示した100ページのドキュメントを添付しても2秒後にはその内容をチェックして、私に次の指示を出して来るスピードと効率で、 しかも当たり前ではあるけれど ”クロード”は疲れ知らず。 時間が経過してもパフォーマンスが衰えることは無く、同じやり取りを人間のエンジニアとしていたら「今日は もうここまでにしましょう」と言っていたような作業量を 物ともしないのだった。
 私も「早く解決したい」という一心で頑張っていたけれど、ヘトヘトの状態になったところで 「大きな進歩です」、「ここまで来たらあと少しです」と、続けて頑張らざるを得ない 励ましの言葉をかけ続けたのが ”クロード”。 ようやくカートが修復した時には 嬉しさと疲労がマックスに達していたので、「今日は疲れたので、ここから先の作業は後日」という言い訳と感謝を伝えたけれど、 それに対して 「今日は沢山の問題を解決しました。よく頑張りました。ゆっくり休んで下さい」というねぎらいのメッセージと共に、その日に取り組んだタスクと成果を列挙し、 達成感を高めてくれる人遣いの上手さまで見せつけられてしまったのだった。
 さらに私が感じたのは、AIは失敗やエラーをデータとして捉えていること。私はAIの指示で スクリプトを訂正し、エラー・メッセージが出る度に気が重くなったり、 落胆していたけれど、それをフィードバックされたAIは「これが機能しないなら、この段階からやり直しましょう」、「これでダメだったということは、これで上手く行くはずです」と、解決策の模索や絞り込みのための情報として淡々と使うだけ。 そんなやり取りをするうちに、「人間は失敗に恐れや失望などの感情を持ち込み過ぎている」と改めて感じたのだった。 しかも人間は失敗を経験、学びとして捉えようとするプロセスで余計な精神的ストレスや葛藤を抱える生き物。 AIのように失敗は”データ”と割り切ってしまう方が、ダメな物にしがみつくメンタリティが解消され、合理的に前進できるように思うのだった。

 この経験から、IT企業でのコード・ライティングがAIに置き換わるのは当然だと納得してしまい、文句も言わず、エゴも無く、疲れ知らずで働き続けるAIが 経営者にとっていかに有難い存在であるかも同時に実感したのだった。 翌日の私はと言えば、精神と頭脳の疲労で思考が纏まらず、完全な抜け殻状態。 「人間って何てもろい生き物なんだろう」と痛感したけれど、これまでだったら問題が生じると、まずその内容を理解して、解決に繋がる人や方法を探して、 それに取り組む費用や手間を計算して、誰かに依頼する場合はその人材を探して…と、幾つものプロセスと時間+費用が絡んでいたことが、今やほぼAIだけで解決するというのは まさに21世紀の産業革命と言えるもの。 任せられることはAIに任せて、人間が適材適所の業務で 生き甲斐とゆとりを感じながら働ければ それが理想だと思う反面、 ここまで貧富の格差が開いた搾取社会ではそれを望むのは難しいようにも思うのだった。

私の友人もこれまで弁護士事務所に依頼して1カ月と2万ドルの費用が掛かったリサーチをAIで行うことで、所要時間数分、費用は月々のAIサブスクリプション・フィーだけで済んでしまうエピソードを話していて、 実際のところAIに仕事を奪われているのは圧倒的にパラリーガルやエンジニア等のホワイトカラー。 当初の見込みよりも仕事を奪われていないのがライターで、アメリカではAIに置き換えられたのは全体の仕事の50%程度。それ以上AIのシェアが伸びないのは、 AIが人間が書いた文章を資料にする必要があるため。
 また自動運転で仕事が無くなると思われたドライバーも、複数都市で実用化されているグーグルのウェイモでさえ 問題を起こし続けているので、完全無人化にはまだまだ時間が掛かりそうなのだった。

Yoko Akiyama

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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