Oct. Week 3, 2023
How the US Media Reacted to...
ジャニーズ問題の米国での扱いは?


このコーナーを読むたびに元気や勇気を頂いているアラサー女性です。
今、日本ではジャニーズの性加害問題が大きなニュースになっているのですが、秋山さんがお住まいのNYやアメリカではどのような感じなのでしょうか。 イギリスのBBCでジャニーズ性加害に関するドキュメンタリーが製作されて、それ以降、「世界が注目する問題になっている」と日本では報じられていますが、アメリカからのリアクションが一向に聞こえてこないので、 この問題がどんな風に扱われているかを知りたいです。

もう1つお伺いしたいのは、アメリカで同じような事件が起こった場合のファンのリアクションです。
実は私の母と姉が親子二代でジャニオタです。 コンサート・チケットを優先的に手に入れるためにファンクラブに会費も払っていますし、過去に何度もジャニーズのコンサートに合わせて友達と旅行をしてきました。
私の知り合いの長年のジャニオタの中には、今回の問題でファンクラブを辞めた人が何人もいますが、 母と姉は「今まで(性加害は)公然の秘密で、TV局も、CM企業も性加害を知ってジャニタレを起用してきたくせして、今更初めて知ったみたいに大ごと扱いするなんて偽善的」と、 今の大騒ぎ自体がおかしいというスタンスです。

先日、父も含めて家族4人で話していた時に、企業がジャニタレのCM起用をどんどんキャンセルしている話になり、 「タレントには罪はない」という母と姉、「そうは言ってもそのタレントは性加害者が経営する会社に属して、その恩恵を受けて来た」という父と私に分かれて 大喧嘩になってしまいました。 今まで母と姉の単なる趣味や娯楽だと思って見ていたジャニオタぶりが、新興宗教並みの洗脳に思えて怖くなってしまいました。
その時に母と姉が、 アフラックというアメリカの保険会社が、個人契約をしてまでジャニタレの1人をCMに起用し続けると声明を出していることを例に挙げて、 「性加害に厳しいアメリカの企業でさえ、ちゃんとジャニタレ起用を継続する」と言って譲らなかったのですが、 ネットのニュースでは、このタレントの父親が権力者でアフラックを優遇したからだと説明されています。 でも母と姉は「それでも個人に罪が無いから個人と契約しようとしている」として譲りませんでした。 アメリカだと、実際のところ「タレント個人には罪はない」という風に判断されることがあるのでしょうか。
私は性加害をして、企業でそれを隠蔽したことは許されるべきではないと思っていますが、確かに母と姉が言うようにこれまで公然の秘密だったことが、 突然犯罪として追及され始めたという感じはしています。秋山さんはそれについてはどう思われますか。
通常のこのコーナーのご質問とズレているようにも思えますが、よろしくお願い致します。

- T -


アメリカではジャニーズに報道価値はありませんが、それより…


アメリカではジャニーズ事務所、ジャニーズ・タレントの知名度が無いので、ジャニーズ問題はメインストリーム・メディアでは殆ど取り上げられていません。 ですから よほど日本通でない限り、一般のアメリカ人は認識していないニュースです。
私が毎朝読んでいるビジネス・ニュースレターでは、そのインターナショナル・セクションで夏頃に数行の記載があったのは記憶しています。 また9月には 日本に住む知人が「アメリカでこの問題がどう報じられているか」と尋ねてきたので、英語で「Johnny's Japan Sex Abuse Scandal」といった内容で、パターンを変えて何度かグーグル検索をしました。 ちなみにグーグルは国ごとにアルゴリズムが異なりますので、日本で英語検索をするのと、アメリカから英語検索をするのでは結果が異なります。
アメリカからの英語検索で最初に引っかかったのは、ジャニーズ問題のドキュメンタリーを製作したBBCの報道、それ以外はABCオーストラリア、チャンネル・ニュース・アジア等、圧倒的にアメリカ以外のメディアで、 それ以外は共同通信やジャパン・タイムズ等、日系メディアの英語版の記事でした。 ようやくアメリカ・メディアの記事が幾つか見られるようになったのは10月2日にジャニーズ事務所が行った二度目の記者会見後のことで、オンライン版のローリング・ストーン誌、デッドラインなどの芸能メディアが ごく簡単な説明を記事にしていました。しかしその記事から全容を理解するのは不可能という短さで、「とりあえず報じておこう」程度のものでした。 最も丁寧に報じていたのは写真上、10月3日付けのオンライン版ハリウッド・レポーターの記事で、トップに使われている写真は2019年にジャニー喜多川氏が死去した際の芸能スポーツ誌の一面のコラージュでしたが、 過去の性加害の裁判判決から、文芸春秋が報じた特集記事、国連の人権理事会にも問題視されていること等が、固有名詞入りで詳しく書かれていました。 恐らくアメリカ人の目に触れるメディアでは、このハリウッド・レポーターの記事が最も事態を的確に説明したものと思います。
この記事はジャニーズについて何の知識もない読者のために書かれているとあって ジャニー氏についての説明もありましたが、 外国のメディアがどんな風にジャニー氏を語っていたかと言えば以下がその原文と翻訳です。

When Kitagawa died of a stroke in 2019, he was a national institution in Japan, credited with pioneering the J-pop boy band model of entertainment that swept Asia in the 1980s and 1990s, ahead of the K-pop wave that would later conquer the world. A ruthless businessman, he was known for his masterful manipulation of Tokyo’s top media and entertainment conglomerates, leveraging his talent’s star power to command top fees and total obedience over how he and his company were covered. Upon Kitagawa’s death, then-Japanese Prime Minister Shinzō Abe offered condolences.
(2019年に死去した喜多川氏は、後に世界を征服することになるK-Popに先駆けて、1980年代、1990年代にアジアを席巻したJ-Popボーイバンドの先駆者として日本の国民的存在であった。 冷酷な実業家であった彼は、東京のトップ・メディアやエンターテインメント複合企業を巧みに操ることで知られ、その所属タレントのスターパワーを利用して最高額のギャラを手に入れ、自分と自分の企業の報道にはメディアに絶対服従を課した。 喜多川氏の死去に際しては、当時の安倍晋三首相も哀悼の意を表した。)

この説明が示す通り、アメリカ・メディアのジャニー氏の共通の捉え方は、「K-Popが世に出る前のアジアで、ボーイバンドのプロトタイプを築いて成功を収めたパワー&マネー・ハングリー、メディアをコントロールするの性加害者」というものですが、アメリカではこの件は大きく報じられなくても、K-Popアイドルの自殺は芸能メディアが大きく取り上げてきました。
しかしながら、日本マクドナルド、日産といったアメリカで誰もが知る企業が、性加害問題を知りながら ジャニーズ・タレントを引き続きCMに起用していた場合には、大きなニュース性があったと思います。 すなわちアメリカでは、ジャニーズの性加害問題は日本のローカル・ニュースの域を出ませんが、スポンサー企業の対応が間違っていた場合は ビジネス・コンプライアンスのスキャンダルになります。 アメリカのジャーナリズムはスキャンダルを報じる場合、人々の関心をそそるアングル、すなわちニュース性が高く、世論が反応する方向から扱う姿勢で徹底しています。 TV業界で一流スポンサーと見なされる企業の多くは、日本市場だけを相手にしていたら経営が成り立たない規模ですから、企業の国際イメージを守るためにもジャニーズのタレント起用を見合わせるのは当然の判断と言えます。

あと数年が経過すれば…

事務所の不祥事に際して「タレント本人には罪はないか」については、 ジャニーズとの関りを断っていて、本人が性加害に幇助、教唆等で加担していなければ、「タレント本人には罪はない」というのは適切な判断です。 後輩に対してジャニー氏の性加害の我慢や受け入れを説得、もしくは肯定したり、 性加害のお膳立てや行為の隠蔽をした場合は幇助の罪に当たりますが、本人が被害を受けながら、それを訴える勇気が無かったことは罪にはなりません。
ですがジャニーズ側が 性犯罪が横行していたことを正式に認めた現在、タレントがそれを承知で、犯罪に対して何の意思表示もせずに 引き続きそこに所属、もしくはエージェント契約で関わる意志を明確にしている場合は、「犯罪を肯定している」、もしくは「犯罪を軽視している」と見なされますので、 それが個人契約であろうと、事務所契約であろうと、CMや番組への起用は不適切と判断されるのがアメリカのスタンダードです。

ちなみに、アメリカ社会では家族に犯罪者が居ても警察官になることが出来ますし、就職に際して家族構成をレジュメに書く必要もありません。 採用や選考に際して、本人以外を審査の考慮に含めることは差別と見なされます。 本人が選んだり、望んだ訳ではない不名誉な人物や団体との関りに対しては、少なくとも表面的には責められることは無い社会です。 それに対して日本は、家族等の自分に選択権が無く関っている人間が起こした不祥事の責任を背負わせる社会です。 そんな日本で 「不祥事を起こしたジャニーズに自分の意志と選択で所属しているタレント本人には罪はない」という意見が出るのは、非常に矛盾した印象を受けます。

それと共に海外からこの問題を見ていると、これまで日本人ならば芸能関係者でなくても「噂で聞いて知っていた」というほどオープン・シークレットであった ジャニー喜多川氏の性加害が ここへきて突如 問題視されたきっかけが BBCのドキュメンタリーであったり、 被害者として名乗り出たカウアン岡本氏の会見が外人記者クラブで行われたり、国連の人権理事会が動いたりと、 ここまでの問題に発展したプロセスのキーポイントに全て国外の機関が絡んでいるのがとても興味深く思えます。 ”日本という部落社会ではどうにもならなかった問題”という感触が否めません。
性加害を働いていたジャニー氏や、経営の実権を握っていたと言われるメリー喜多川氏亡き後、 メディアや関連企業への影響力が衰えてきたところで、「いよいよジャニーズ潰しが始まった」 という声が聞かれる中、 ジャニーズ側は新会社を立ち上げて 「海外のようなエージェント・ビジネスへの転換」を謳っていましたが、 ジャニーズほどに業界を仕切っていたパワーが劣勢になれば、これからは海外のエージェント企業が日本に進出して、世界を目指したい日本のタレントやアーティストと 契約するようになっても不思議ではないと思います。

実際にK-Popの世界でも、2021年にBTSを抱えるHYBEが、ジャスティン・ビーバーの長年のマネージャーとして知られるスクーター・ブラウン率いるイサカ・ホールディングスを総額10億ドル以上で買収し、HYBEの完全子会社であるHYBEアメリカを設立。その社長にスクーターブラウンが就任し、これまで韓国内で行われてきたアーティストのインキュベーションをアメリカ、すなわち世界を舞台に行うと宣言しました。 この契約については、「HYBEがスクーター・ブラウンのマネージメント力欲しさに、10億ドルとアメリカ子会社の経営権を彼に渡してしまった失策」という指摘も多いですが、これを機にK-Popが 世界のエンターテイメント市場の半分のシェアを握るアメリカ市場に第二、第三のBTSやブラックピンクを送り出して行くことが見込まれています。 また現在の駐日米国大使ラーム・エマニュエル氏の弟、アリ・エマニュエルがCEOを務める アメリカ最大手エージェンシー、エンデヴァーも 現在では韓国企業と映画、TVの製作会社を共同経営していることで知られます。
それとは別に音楽の世界ではヒスパニック系のアーティストがスペイン語の楽曲でアメリカを始めとする英語圏でメガ・ブレイクをして久しい状況です。 ファンはスペイン語が話せなくても コンサートでは楽曲をスペイン語で大合唱しており、「英語圏では英語の楽曲でなければ売れない」という従来の音楽業界上層部の主張をここへきて完全に覆してしまいました。 加えてチャットGPTで知られる、オープンAI社がスポティファイと提携してポッドキャストをジェネレーティブAIで、本人の声で他国語に変換する技術を開発中であることはキャッチ・オブ・ザ・ウィークのコラムでも触れましたが、 既に同様の音声翻訳をビデオで実現するアプリは登場しています。すなわちエンターテイメントの世界ではどんどん言語の壁が取り除かれて、国境が無くなりつつあるのです。 そうなると これまで海外進出の意図や意志が無かったアーティストにとっても、活躍の舞台が世界になりうる時代がどんどん迫っていますし、特に日本のアニメはウェブ3、メタヴァース時代の”金の成る木”です。
そんなグローバルな時代に対応するに当たって、日本のエンターテイメント、及びメディア業界がここで 過去の様々な膿を出しながら、日本特有の歪んだモラルや忖度意識、噂されている反社会的勢力との繋がりなどを払拭し、外国資本と結びつくことが出来る存在になっておくことは、今後の生き残りと発展、引いては日本経済の将来のために極めて重要なステップです。
既に時代は変わり始めていますし、一度動き出した大きな流れは何をもってしても 止められないのは歴史が証明する通りです。 日本人はそうした時代の流れを掴む感覚に優れた国民であるはずなので、ジャニーズ問題だけの「木を見て森を見ず」に終わらない、徹底的な社会改革が始まって欲しいと思う次第です。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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