Feb. Week 1, 2022
Inferiority Complex in Investing
投資コンプレックスを解消するには


NYが大好きで、友達に教えてもらってから 早6年くらい御社のサイト、特に秋山さんのキャッチ・オブ・ザ・ウィークと アドバイスのコーナーを愛読しています。
私は30代半ばで、少し前から株式投資をするようになり、投資に詳しい友だちやYouTuberのアドバイスを参考にするようになりました。 でも自分の知識や判断に自信が持てないせいで、友達やYouTuberの言うことが自分の投資戦略になってしまい、 そのせいで「投資をしない方が良かったのでは?」というような損失を被りました。
友達はウォーレン・バフェットの信者みたいな人で、私を説得する時に用いるのが「バフェットがこうやってきた」、「バフェットもつい最近これに投資をした」みたいな例で、 それに合わせて株を買っていた時は本当に損ばかりでした。 フォローしているYouTuberはビデオだけでなく、その人の本も読んで 昨年ゴールドを買いましたがこちらも全然儲かっていません。 そのYouTuberがビデオで「環境問題は大切だけど、投資は別」と言いながら石油株を薦めていたのにも矛盾を感じました。 その時は多分去年の春くらいだったと思いますが、たまたま秋山さんがキャッチ・オブ・ザ・ウィークのコラムで、「アメリカでは世の中を良くする企業に 投資をする傾向が高まっている」と書いていたのを読んで とても感動したのを覚えています。たとえ損をしても 世の中が良くなる企業にお金を投資をしていたら、後悔が軽減されたように思ったほどです。

私は投資をするには知識がなくて、決断力が無いことを自覚していますが 低金利の時代なので、銀行にお金を置いているよりも投資をした方が良いという気持ちを持っています。 でも友達は ある有名なYouTuberが「投資の勉強にエネルギーや時間を使っても、損をするのだから 地道に貯金をするのが一番」と言っていたのを聞いて、全く投資をする気が無いと言います。 その話をしていた時は「お互いにYouTuberに影響されて人生を決めるなんて情けないね」と笑っていましたが、 友達が「複利」という投資の利点を全く考えていないのは他人事ながら問題があると思いました。

私は他のことでは優柔不断ではなく、自分のことは自分で決められると思っているのですが、何故か投資になると苦手意識があるせいでしょうか、自分の決断に自信が持てません。 だから人の言うことを聞いて後悔して、だからまた自信が持てないという 負のスパイラルに陥っているように思います。
支離滅裂なメールになっていて恐縮ですが、秋山さんにお伺いしたいのは 私のような投資コンプレックスを解消する方法はあるでしょうか。 それとも私のような性格は 手堅い投資だけにして、あとは地道に貯蓄をするべきなのでしょうか。 何かお知恵やアドバイスをして頂きたいと思ってメールをしています。
秋山さんがおっしゃる通り、私もこれから時代が変わって行くような気がしているので、お金や自分の資産という点でも 時代の変化に乗り遅れないようにしたいという気持ちで一杯です。 是非宜しくお願いします。

- R -


貯蓄で現状が維持できる時代は終わりつつあります


Rさんの投資コンプレックスについて触れる前に、まず投資王国であるアメリカの実情についてご説明したいと思います。
2020年段階で アメリカのミリオネアの数は全人口の8%に当たる2027万人。世界中のミリオネアの39%が集中しているのがアメリカです。 アメリカはトラストファンドのような非課税の生前贈与手段がある上に、相続税率も日本より格段に低いことから、代々財産がある家系がミリオネアというイメージを持つ人は少なくありません。 しかし相続によるミリオネアは全体の20%に過ぎません。 またミリオネアのうち仕事によって30万ドル以上を稼いだことがある人は3分の1に満たないそうで、アメリカのミリオネアの大半は投資によって実現しているのです。
実際にアメリカには ”Poor people spend, middle class save, rich people invest" と言う言葉があります。 すなわち生活に追われる貧困層は入ってきた収入を使うだけの自転車操業、ミドルクラスは働いて稼いだお金を貯蓄する人生、そして富裕層は働くよりも投資で効率良く財産を増やし、 税率も低いという様子を表しています。ですが貯蓄で何とか現状維持が出来ていたミドルクラスも、前回のリセッション以降は財産を減らすケースが増えていて、 パンデミックがそれに拍車をかけた結果、貧富の差が大きく広がりました。 要するに貯蓄をしているだけではダメなのです。

それとは別に、日本ではバフェット信仰が未だに強い様子を時折耳にしますが、アメリカでは若い世代を中心に ウォーレン・バフェットの投資を時代遅れと見る傾向が顕著です。 その理由は、彼がコカ・コーラやマクドナルドといった アメリカの肥満社会のバックボーンとなる企業に投資をし続けてきた一方で、 近年のアップル社を除いてはIT企業に投資をしてこなかったこと。 また前回のファイナンシャル・クライシス(日本で言うリーマン・ショック)の際に、一般投資家には決して与えられない好条件でゴールドマン・サックス株式の大量購入を政府からオファーされるなど、 バークシャー・ハサウェイという会社が、決してフェアゲームの投資だけを行ってきた訳ではないことも挙げられます。
加えてバフェットがその存在を否定するビットコインに投資をしていたら 過去5年間に4,685%のリターンが得られたのに対して、 バークシャー・ハサウェイに高額なフィーを支払って投資をしていたクライアントは過去5年でその40分の1のリターンも得ていないこともウォーレン・バフェットが時代遅れ扱いされる大きな要因です。

ゴールドの投資に関して言えば、2020年は1オンスの価格が$1479から$1858ドルに25.6%の上昇を見せましたが、2021年に入った途端にワールド・バンクがゴールド価格の下落を予想。 実際に2021年にはアメリカで約7%のインフレが進んだ中、ゴールド価格はほぼ同じ割合で下落し、これまでの歴史が示すようなインフレ・ヘッジになりませんでした。 ワールド・バンクはこの傾向が続くと予測し、2030年にはゴールド価格が1400ドルにまで下落すると見積もっています。
でも私自身は以前コラムに書いた通り、ゴールドを投資対象には考えなくても ゴールド・ジュエリーを購入するのは悪いお金の使い方だとは思っていません。 というのはキャッシュレスが一般的になって、アメリカではキャッシュどころかお財布さえ持ち歩かない時代に入っているので、 不測の事態に備えて 時計でもジュエリーでも お金に替えられるものを身に着けていることが大切であること。 加えて職人不足やその給与上昇を受けて2020年からジュエリー製作の工賃は大幅にアップしています。そのためゴールド価格とは無関係にゴールド・ジュエリーの値段は上昇の一途を辿っているのです。
またアメリカでは1970年代まで国民がゴールドを5オンス以上所有することが禁じられ、その法律が施行された際には 政府による強制的な買い取り、没収が行われました。しかしゴールド・ジュエリーはその没収の対象外でした。 ゴールド没収はアメリカだけでなくイギリス、オーストラリア、インド等で比較的近年起こっていましたので、今後通貨が変わって行く社会で 再びそれが起こっても不思議ではありません。

世の中を良くする企業への投資については、Rさんがご指摘の通り昨年1月のキャッチ・オブ・ザ・ウィークのコラムで ”SRI (Socially Responsible Investing / ソーシャリー・レスポンシブル・インヴェスティング)”として 触れたことがありますが、昨今アメリカの金融業界では ESG (Environmental, Social and Corporate Governance)という名称が一般的になっています。 2022年の投資のドライヴィング・フォースになると言われるESGは 環境問題、人権問題、ディバーシティ等、様々な社会的モラルの視点から行う投資が含まれます。 今や9.4兆ドルのアセットを動かすブラックロック等、大手の資産運用会社のトップ・アセット・マネージャー達が ESG マンデート(ESGのポリシーに沿うことを義務付けられた)ファンドを扱っています。 アメリカの投資コンサルタントも新規クライアントに対して どの程度の資金、どの程度のリスクといった基本事項に加えて 「どの程度ESGにこだわった投資をしたいか」と尋ねるのがスタンダードになりました。
アメリカのような国では 投資をする人ほど高学歴で、社会意識が高い傾向にあります。昨今ではアクティヴィスト・インヴェスターが力をつけて 投資する企業の風紀にまで口を出すようになりました。 マイクロソフト社でさえ、そんなアクティヴィスト・インヴェスター達の圧力に屈して ビル・ゲイツ元会長を含む同社上層部のセクハラ問題の 処分が公平に行われたかを セクハラ専門の弁護士事務所を雇って調査・公表することを約束したほどです。
要するに投資のレベルでも世直しをしようというムーブメントが高まっていますので、Catchのコラムに書いたように「自分1人では世の中は変わらない」と考える時代は終わって、 「時代の変化の一部になろう」という時代に変わってきているのです。 環境問題を重視するのであれば 例え大きな利益が見込まれても石油、石炭会社への投資を控えるのが現代のインヴェスターで、 これからの世の中はESGに沿った投資の方が 企業スキャンダルやイメージダウンによる株価下落のリスクも無く、手堅い投資と言えるのです。
世直し系のインヴェスターほど「自分のポリシーに反して、世の中に害を与えるお金は儲けたくない」と言いますが、 昨今では そうした「キレイごとを言うインヴェスター」ほど資金力がある時代になっていますので、世の中は必ずしも悪い方向にだけ進んでいる訳ではない と私は考えています。

こうしてアメリカの状況を踏まえると、お友達やYouTuberの投資アドバイスに対して懐疑心を抱いていたRさんのお考えの方が、 世の中の投資の流れとマッチしていることに気付くと思います。 Rさんは自分のことは全て自分で決められる方なのですから、 それが投資で出来ないとすれば「何も分かっていない」、「それではダメだ」、「それだから儲からない」と お友達やYouTuberにブレインウォッシュされてしまったためです。 これからの投資はESG投資家のように自分が生きる世の中で、自分のお金をどう生かせるかという視点で考えるべきもので、 偉そうにウンチクや限られた知識を持ち出してくる人の言いなりで行うべきではないのです。

千載一遇の投資チャンス、大切なのはマクロの視点です

Rさんは投資をする理由に複利を挙げていらっしゃいましたが、 それもさることながら 人生では何が起こるか分かりません。ある日突然様々な状況が変わってしまいます。 状況が変わらなくても 人間である限り確実に老化は進みますので、労働収入と貯蓄で人生設計を考えるのは地道で確実のように見えて、実はリスキーなのです。 Rさんがリタイアする時代には、年金制度がとっくに破綻していても不思議ではありません。 ですが投資ならば 頭さえまともであれば、何歳になっても収入を得ることが可能ですし、税制が変わっても対応していくことが出来るはずです。

何度かこのコーナーに書いてきましたが、世の中は2020年12月からそれまで約200年間続いた土の時代から風の時代に突入しました。 これからは時代が大きく変わっていきますので 既成概念に捉われる人、思い込みが激しい人、頭の切り替えが出来ない人にとっては厳しい時代になります。 風の時代に物を言うのはフレキシビリティと情報、迅速な行動です。情報収集をせずに、1つの物にしがみついていたら確実にチャンスを逃しますし、 財産でも、住居や人間関係でも、管理や維持に手間と時間が掛かるハイメンテナンスなものは 時代の波に乗ろうとする人の脚を引っ張ります。
そんな時代の波を察知するのに不可欠なのがマクロの視点です。 時代の大きな流れを理解して、迅速で無駄のない動きをするには世の中全般や経済をマクロの視点で的確に捉えるしか道はありません。 現在の世の中は Web3、メタヴァース、DeFi、GameFiなど、新しい通信、ライフスタイル、金融システムに向かって資金も人々の関心も大きく動いています。 テクノロジーに関しては人類の歴史はワンウェイで、決して後戻りしたことはありません。動き出したら止めることはできませんし、そのスピードはどんどん速くなっています。
その意味でインターネットが世に普及した1990年代以来の千載一遇の投資チャンスが巡ってきていると言われるのが現在です。 当時マクロを見据えていた人は、派手に広告をして 映画にも登場していたアメリカ・オン・ラインよりも、 欲しい書籍が確実に見つかるアマゾンの便利さやビジネス拡大の可能性に投資をして、僅かな元手でもマルチ・ミリオネアになっているのです。 専門家が薦める馴染みの無い銘柄や、何が含まれているか分からないETF等に投資をするだけが、資産を増やす手段ではないのです。

その一方で私はクリプトカレンシーの可能性を早くから信じてきましたが、それは世の中、特に不公平な金融システムに変わって欲しいという願いもさることながら、 歴史的に社会の上層部が生み出して下に押し付けてきた通貨が必ず破綻してきたためで、クリプトカレンシーがもたらす ”Decentralization / ディセントラリゼ―ション” は 人類の歴史上極めて画期的なコンセプトだと考えています。 日本では「分散型」という意味不明な訳がされていますが、これは中央集権制と対局にあるシステムと捉えるべきです。世界中で政府が信頼を失い、建て直しが不可能な状況に陥る中、 もはや中央集権で治められる時代は終わり、個人が中間業者や強者を守るルールやシステムに阻まれることなく 情報発信や経済活動が行える Decentralizedな世の中に向かって 時代が動き出しています。 それを実現するのがWeb3で、その新しい世界の通貨を担うのがクリプトカレンシーです。 そんな世の中の未来の展望を自分なりに学んでいくことは、これからの時代を生き抜く上で不可欠ですし、正しい情報をタイムリーに得る手段も極めて大切になってきます。

時代を見据えた大きな視点での投資というものを考えた場合に、私はRさんが 「どうして投資では上手く行かないのだろう」と感じるのではなく、 むしろ「やり方さえ変えたら、私はきっと儲けられる」と自信を持つべきだと考えます。 ウォールストリートでもヴェテランがリタイアを急がざるを得ない世代交代が起こっているのですから、時代も投資も変わりつつあるのです。
Rさんは未だ30代半ばなのですから 「これからの時代の世の中と経済を自分の目で見据えた、自分が納得できる投資」という方針に切り替えて行けば、 誰にも頼ることなく 90年代にアマゾン株を買うような投資が出来るはずです。人間には誰にでも自分を幸せに導く本能が備わっています。 自分の嗅覚に自信を持って それを磨くことを心掛ければ、他の人には当てはまらない自分だけの成功のフォーミュラが用意されているはずなのです。
そのためにはお金よりも知識や情報を貪欲に集めて、固定概念に捕らわれず、勇気を持って 頭や気持ちを切り替えながら前に進んで下さい。 きっと上手く行くはずです。応援しています。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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