June Week 2, 2020
★ " BLM VS. ALM "
何故"All Lives Matter" というとバッシングされるのでしょう?


秋山さま、
昨年秋からアメリカで生活しています。CUBEさんのウェブサイトはアメリカに来る前から愛読していました。 何時も有益な情報や勉強になるお言葉をありがとうございます。

アメリカに来て数ヵ月でコロナウィルスの問題が起こったかと思ったら、今度は抗議活動がどんどん大きくなって 乱気流に巻き込まれたようなアメリカ生活をしています。
警察の暴力に抗議する「Black Lives Matter / ブラック・ライブス・マター」のデモはとても理解できますが、私は日本人としてアメリカ住んでいて、 コロナウィルスの問題でアジア人が暴力を受けたりしていたので「All Lives Matter / オール・ライブス・マター」の運動を支持したいと思ったのですが、 友達に「レイシスト」だと言われました。 どうして「全ての人種の命が大切だ」というとレイシストになるのか良く意味が分かりません。
グーグルで検索するとインド人の女優さんも「オール・ライブス・マター」を支持してバッシングされていましたが、 私の考えでは「ブラック・ライブス・マター」といって黒人の人達の命だけを重んじる方がレイシストのように思えます。 どうして「オール・ライブス・マター」がそんなに悪い事なのかアドバイスのコーナーでご説明いただけるでしょうか。 よろしくお願いします。
これからもずっと頑張って下さい。

- C -




ALMの本当の意味は…

通常、このコーナーはご質問を頂いた順番にお答えしていますが、Cさんのご質問がタイムリーなものだったので先に取り上げさせて頂きました。
「All Lives Matter / オール・ライブス・マター(以下ALM)」は2016年の大統領選挙の際にヒラリー・クリントンもスピーチで訴えて顰蹙を買っていましたので、 Cさんのように未だアメリカのカルチャーに馴染みが薄い方が その意味の背景を知らずに誤解してしまうのは容易に理解できるところです。

ALMは 「Black Lives Matter / ブラック・ライブス・マター(以下BLM)」の抗議活動に対抗するスローガンとして白人至上主義者及び右寄りの保守派の中から生まれたメッセージです。 「オール・ライブス・マター/全ての命が大切」というのは誰もが持ち合わせているべき常識で、言わば当たり前のことです。 にも関わらず黒人層をその例外として、時にその人権を否定するかのような過剰暴力を行使する警官に対する抗議がBLMです。
警察による公平な扱い、人並みの扱いを求ている BLMのメッセージが 白人至上主義、及び右寄りの保守派の間で「黒人層が自分達の命に対する特別扱いを望んでいる」という身勝手な主張に捻じ曲げられ、 「黒人層だけでなくすべての命が平等に大切」という大義名分のカウンター・スローガンとして掲げられたのがALMなのです。 ALMの背後にあるのは BLMのムーブメントを食い止めることによる現状維持、すなわち従来通りに警察が黒人層を中心としたマイノリティを厳しく取り締まり、 白人優位の社会を保つ思想なのです。

同様の抗議活動の意図の捻じ曲げは NFLの試合前の国歌斉唱の際に 跪くジェスチャーをしたコリン・カパーニックに対しても見られていました。 先週にはニューオリンズ・セインツのクォーターバック、ドリュー・ブリーズが「国歌斉唱の最中に跪くのは、国旗と軍隊に対する侮辱行為」とインタビューで語って大バッシングを浴びていましたが、 その理由はNBA ロサンジェルス・ レイカーズのルブロン・ジェームスが 「カパーニックの抗議の意味が未だ分かっていないのか? 国歌斉唱の際に跪くのは 国旗や軍隊への敬意とは全く別の問題だ」と反論ツイートをした通りです。
コリン・カパーニックは警察の黒人層に対する過剰暴力に対する平和的な抗議手段として跪いていただけですが、 それに「国旗と軍隊に対する侮辱行為」というカパーニックの意図とは全く無関係の意味合いを持たせて批判とカウンター・アクションを繰り広げたのが トランプ大統領とその支持者たちです。 NFLとそのチーム・オーナー達は「国歌斉唱中に跪いたプレーヤーを解雇するべき」 というトランプ氏の主張に従って 過去2シーズン 跪く抗議の禁止を打ち出していました。 しかしながらBLMムーブメントが大きく高まってきたのに加えて、先週には今年のスーパーボウルMVP、パトリック・マホームズを中心としたスタープレーヤーによる BLMサポートのメッセージ・ビデオがヴァイラルになったことからNFLが方針を転換。 コミッショナーが今年のシーズンから選手たちによる平和的な抗議活動を認める声明を先週末に発表したばかりです。

ドリュー・ブリーズの発言に対しては彼のチームメイトを含むNFLプレーヤーも反発し、失望したファンの中には彼のユニフォームを燃やす人もいたようですが、 彼自身は人間的評価が高く、チャリティにも熱心で、こんなトーンデフ(世情音痴)のコメントをするとは思えなかったプレーヤーです。 ですが白人としてBLMの問題を他人事として捉えていたら、 たとえ黒人層が80%を占めるスポーツ・リーグで長年プレーをしていても、 その程度の認識しか持てないことを改めて社会に示す形になりました。
その後ドリュー・ブリーズは周囲に意見を求めたようで 2回に渡って謝罪をし、 「謝る必要は無い」と彼をサポートするツイートしたトランプ大統領に対しても「間違っていたのは自分だ」と反論。 翌日には彼の妻、ブリットニー・ブリーズが「We are the problem」と、人種問題を理解したつもりで実は何も分かっていなかった白人層として謝罪をしていました。
私は白人至上主義者や右よりの保守派でない人がALMをサポートするのもまさに同じ状況だと思います。 表面的なスローガンで判断すればALMは正しい主張に聞こえるかもしれませんが、 問題の根本や背景を理解せずに ALMに肩入れすればアメリカではレイシズム(人種差別)と見なされますし、 実際に人種問題に無関心な人がレイシスト同様の発言をしたり、同等の考えを持っているケースは少なくありません。 ドリュー・ブリー同様、そうした人々に欠落しているのが 人種問題を自分が生きる社会の問題として捉えて、受売りではない正しい情報や事実に目を向ける姿勢なのです。
今はアマゾンやネットフリックスで BLMへの理解を深めることが出来る「Selma / セルマ」、「Just Mercty / ジャスト・マーシー」等の映画や、「The Unconfortable Truth / ジ・アンカンファタブル・トゥルース」といったドキュメンタリーを 無料で観ることが出来るようになっていますので、これを機会にCさんがアメリカの人種問題について学ばれることは 今後のアメリカ生活に役立つと思う次第です。

移民のアジア人がBLMをサポートするべき理由

現在白人層の間では「White silence is white consent (白人の沈黙は白人による容認)」、「White silence is white violence(白人の沈黙は白人による暴力)」という スローガンが高まって、これまでのようにBLMを他人事と思ったり、何もしないで静観してきたことが人種差別問題を継続させてきたという意見が高まってきています。
その一方でアジア系、ヒスパニック系などのマイノリティの間でも「BLMをサポートするべき」、「静観すべきでない」という声が溢れています。 その理由は同じマイノリティとしてサポートするべきというより、移民であるマイノリティ人種の全てが マーティン・ルーサー・キング Jr. と黒人層による公民権運動の恩恵を受けているからです。
アメリカでは1924年に ほぼ全てのアジア諸国からの移民を禁止するイミグレーション・アクトが議会で可決されました。 そのアジア系移民差別が撤回されたのが、ケネディ大統領暗殺を受けて副大統領から大統領に就任したリンデン・ジョンソンが1965年に署名した 「イミグレーション・アンド・ナショナリティ・アクト」、すなわち現在の移民法です。 この移民法改正はマーティン・ルーサー・キングJr. による公民権運動によって高まった当時の世論の後押し無しではあり得なかったことです。 公民権運動は、ジョンソン大統領が同じく1965年に署名した「投票権法 / Voting Right Act」を勝ち取るためのものでしたが、 そのために払われた黒人層の多大な犠牲と長きに渡る戦いは映画「セルマ」などにも描かれている通りです。

それとは別に、私自身が人種差別と取れる発言を聞く機会が多いのはアメリカ人との会話よりもむしろ日本人との会話においてです。 話している本人はそれが人種差別発言とは気付いていませんし、全く悪気無しに語っています。 「黒人なんかと一緒にされたくない」、「黒人のくせに……」、「黒人の割には……」など、アメリカ生活が長い私がギョッとするような発言が 出てくることは珍しくありません。
何年か前の日本人との会話では 「幸いうちは旦那が白人だから 子供は人種差別とは無縁」と言う女性に対して 同席していた人が「アメリカの人種のヒエラルキーでは マイノリティのピュアブリード(純血)の方が人種ミックスよりも上にランクされる」と説明し、それに対して「黒人と日本人の子供よりは上でしょ」というやり取りを繰り広げていましたが、 このように人種に優越をつけるのはまさに人種差別です。
またBLMの抗議活動が広がってからは、ホワイトニング・クリームの広告に登場しているプリヤンカ・ショプラ等のボリウッド女優が「白人至上主義の片棒担ぎ」と批判されていますが、 日本の化粧品会社が謳う「美白効果」も アメリカ社会のスタンダードでは人種差別に当たります。 特定の個人を感情的に嫌うのは単なる好き嫌いの問題ですが、その個人の人種や国籍を一括りにして「これだからXXX人は信用できない」などと批判、否定すればそれは人種差別です。 さらに勝手に相手を特定の国籍だと決めつけるのも人種差別で、LAに居るラテン系だからメキシコ人だと決めてかかったり、 日本人に対して「ニーハオ」と声を掛けるのも 少なくともアメリカではレイシストと判断される行為になります。

現時点で確実に言えるのは、既にカルチャー・センシティブだった世の中が BLMの抗議活動の盛り上がりによって 益々その傾向が高まったということです。 人種だけでなく、LGBTQコミュニティに対する言動や行動、セクシズム、エイジズム等に世の中が極めて敏感になり、 失言や過ちがあっという間にソーシャル・メディアで広まって、「知らなかった」では済まされない事態に発展するのが現在です。
なので もし東京オリンピックを2021年に開催するのであれば、それに向けたカルチャー・センシティブ対策をしっかりして、 メディアやビジネスが様々なバックグラウンドの人々に対してオフェンシブな言動、対応、表示をしないように心掛けないと、 どんなに日本人が親切で善良であっても その国民及びカルチャー・イメージを損ねるリスクがあると思う次第です。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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